第29話 剣姫と呼ばれる女性
俺は動画を観たあとはいつも通りスマホで読書をして過ごす。
昔から好きな転生ものの王道ファンタジーに思いを馳せながら、コーヒーを飲み、スマホをいじっている。
すると1班のグループラインで、今日の動画の内容や、俺やアキの通り名などで一盛り上がりしたあと、明日の日曜日、また買い物に行こうと誘いが来るので、了承する。
来週からは中層探索が始まるので、何が起こるかわからないので今を楽しもうと少しはしゃぎに行こうと思う。
それでも最近は毎晩夕食のあと、宴会してる気はするけど…。カラオケが有ったら最高なんだけどな。
でも街にお金を落としに行くことも大事だと思う。もう少しすればお金持ちだからね。
そんな事を考えていたら集中が切れてしまったので、テレビをつける。
するとワイドショーではまだ動画の話しをしている。その話しの中心はどうやら「爆炎の帝王」に関してである。
あの魔法の威力が、そもそも合成なんじゃないか?とか、核爆弾を使っているんじゃないか?とか、核爆弾を小型化して持ち歩いている探索者を批難する声もあがっている。
撃った俺でさえ、あの魔法の原理など知らないから、批難されても困るんだけどね。
それに撃った俺が一番ビックリしてるからね。ギリギリチビラなかった自分を褒めてあげたい!
そんなもので、動画の魔法を撃った後に
まあ言わなければ分からなそうなので、あえて言う事はないのだけども。
それでも探索者がどのような仕事をしているのか、これから探索者を目指す者達にとっては良い参考にはなるのではないかな。危険な仕事だと思うか、目指すべき仕事だと思うか。今後が楽しみである。
翌日日曜日。朝食を皆で食べていざ出かけようとエントランスを出た所へ、黒色の高級ワゴン車が、寮の入口に横付けして停まる。
車の窓は色が入っていて中は見えないが、運転手と助手席に乗ってる男の雰囲気が、何か普通じゃないオーラを出している。
すると助手席の男が降りてきて、俺らに近づいてきて、一礼をし、五ツ星の人間だと名乗った後に「爆炎の帝王に会いたい」と言ってきた。
これ俺が自分から「俺が爆炎の帝王です」とは口が裂けても言えるわけがない。そんな恥ずかしい事は出来ない。
と思っていると、班のメンバーが一斉に俺を見た為、その男も気付いたみたいだ。
「あー…トウキン工業の磯山です」とあえて普通に自己紹介をする。
すると男は、車の後部座席のスライドドアを開けて、「お嬢、この方です」と中に向かって声をかけた。
「ご苦労様でしたマサ」と、鈴を転がすような綺麗に響く声が聴こえてくる。
「御初にお目に掛かります。わたくし五ツ星重工業ダンジョン探索チームの責任者で探索者の五ツ星と申す物でございます」
超絶美女が、丁寧に挨拶してくるが、五ツ星重工の五ツ星さんって事は、どう考えてもご令嬢だ。パンツスーツで身長はアキとそう変わらず170cmはある。黒髪ロングで立ち姿まで美しい。
「はあ…トウキン工業の磯山です」
とまた同じ自己紹介を返す。
「これからお出掛けするところでしたか?お邪魔をして大変失礼致しました。ただ少しだけお時間を頂くわけにはいかないでしょうか?」
と言われたので皆を見回すと皆頷くので、
寮の談話室を使わせて貰えるよう許可をとる。各企業の探索部は、極秘事項が多々あるので、勝手に他社の探索者を招き入れるわけには行かない。談話室なら一番手前にある部屋なので許可はおりやすい。
こちらのメンバーと、向こうのメンバー5人で談話室に入りテーブルを挟んで向かい合って座る。
「最初に言っておきたいことがあります。俺は産まれも育ちもそこら辺の一般人です。そんな丁寧な言葉使いは鳥肌が立ってしまうから、勘弁してくれませんか?」
と最初にカマしてみる。すると
「わかりました。この程度はご容赦願います。この度は、昨日のMAOUの動画を拝見しまして、爆炎の帝王様に会いに参りました」
「自分でそう呼んでいるわけではないので、それもご勘弁を。まあ…あれは俺で間違いありませんが」
「フフフ。実はわたくしも通り名が付いておりますわ。『剣姫』と」
それを聞いて、周りのメンバーは一斉に顔を見合わせる。
あの動画で一番人気のある女性探索者が「剣姫」である。本名や顔は誰も知らず、ネット民共はかなり妄想を膨らませている。戦闘方法は近接による一方的な殲滅。かなり好戦的思考の女性と言うイメージだ。その張本人が、目の前にいるこの美しい女性だと?DTのネット民共には刺激が強すぎるだろうな。
「それでそちらの女性が『戦乙女』そちらが『格闘少女』ですね?」
格闘少女は初耳だが、間違いなくコズであろう。そして「少女じゃ無い!」とプンスカしているコズが可愛い。
「それでその剣姫さんが今日はどういった御用で?魔法については何も教えられませんよ?」
と先に釘を刺す。
「当然それは理解しております。率直に申し上げますと、貴方が欲しい」
ん?いきなり告白された?
「あ、ほほ欲しいというのはあれです、わわわ我社に来て欲しいと言う意味ですからね!」
メッチャ動揺してる。顔も真っ赤だし、目が泳ぎまくっている。これは完全におぼこだな。
「それはダメ!イソは誰にもあげない!」
とコズがムキになって俺の前に割り込んでくる。また告白された?
「申し出は有り難いのですが、お断りさせて頂きます」
コズを押し退けてそう伝える。
「報酬面などはご希望に添える額を用意する事も出来ますが?」
「金じゃないですよ。それに金は使い切れない程入って来ますから」
「すると何の為にダンジョンへ?」
と先程マサと呼ばれた男が鋭い眼光で聞いてくる。
「自分の浪漫のためですよ。会社の為とかなんて綺麗事は言いませんよ」
「それなら我社で探索者をしても良いではないですか?違約金が発生するならウチで払いますが」
「違約金の問題ではありません。俺は五ツ星重工業だけは行きません。なんせ選考で落とされてるんで」
そうなのである。実は各企業が探索者募集を始めた時に、俺は真っ先に五ツ星とトウキンにプレエントリーしたのだが、五ツ星からは良い返事を貰えなかった。その後すぐにトウキンの内定をもらえたので、トウキン工業に決めたのであった。
「恨んでいるわけではないんです。落ちたお陰でこうして頼れる仲間にも出会えましたし。五ツ星重工業さんとは縁が無かったと思っているだけですよ。ですからそちらには行きません」
俺ははっきり言える男である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます