第28話 五ツ星 京香 2

 その後も我らのチームは、新たに見つけた蛾の棲家で、翅の鱗粉と蛾の幼虫である毛虫による毛に苦しめられながら、スキル「幻惑の鱗粉」を手に入れ、黒光りする…デュビアの巣…Gの巣では雄叫びをあげながらG共を殲滅して行った。そして残念ながら蜂に襲われて命を落としたメンバーもいた。

 

 集落や魔物の巣を討伐しては奥に進み、魔石を稼いでいく日々である。ある程度スキルと魔法が揃ってきて、能力値も低層の森では上がりづらくなってきたので、そろそろ中層域を目指そうと会議で話し合い、我々「チームA」は週明け月曜日から中層域を目指すことが決定した。

 

 残りのチームに、巣や集落の討伐方法を我々が録画した映像で説明しながら、チーム分けと引き継ぎをしていく。最後に安全第一と付け加えて解散となった。


 恐らくほかの企業の探索チームの中でも、我々のチームが魔石狩りの先頭を走っていて、我がチームの成長速度を超える事は出来ないだろうと思っていた。


 あの動画を見るまでは…


 探索開始から2週間がたった週末朝、突如世間が騒がしくなっていた。


 それはMAOU officialと言うアカウントからあげられた動画が世間を騒がせ、私の長く伸び切った鼻を綺麗にへし折ってくれた。


 そこには私達の探索姿が何処かからか撮影されていて、私達が討伐したコボルトの集落、女郎蜘蛛の巣、蛾の棲息域、デュビアの巣……要するにGの巣が動画にあがっていた。

 

 Gの巣などは、私と静香が悲鳴…と言うより、魂の叫びを上げながら討伐している姿が映ってしまっていた…。一生の不覚……。


 そしてどうやら私はネットの世界では、「剣姫」とアダ名がついているようだ。別に悪い気はしない。


 その他の動画は、東西北側の探索者達の討伐シーンなどが録画されていた。


 その中に私に衝撃をもたらした動画があった。


 それは北側のトウキン工業の探索者が放った、とてつもない威力の魔法の破壊力であった。実際見たことが無いので何だが、核爆発が起きたのかと思う程の光の眩しさと、その後迫ってくる爆炎、その後に残った炭化した木と、えぐられた地面が、私の体に恐怖を植え付けていた。

 

 まさにネットやワイドショーなどで言われている「爆炎の帝王」と言う名に相応しい魔法であった。


 その後の美しい女性が振るう長さ2mほどあろうかと思われる槍だか斧だかの実験映像も衝撃だった。

 私の予想では槍のスキルを得ている様な洗練された動作で武器を振り、スイングスピードが速すぎて、刃の周囲にソニックブームが発生していた。

 あの武器が凄いのか、振るう女性が凄いのかハッキリとはわからないが、「戦乙女」と呼ばれるのも納得である。格闘少女も凄かった。


 私が一番ではなかったのか…おそらく彼の魔法には到底勝てない…今のままでは…そしてあのハルバードを振るう女性にも私は勝てるのだろうか?


 これが探索者か。これがダンジョンか。


 まだまだ上が居る。たまらない!


 あの火力に追い付くには、早くレールガンの実用レベルでの実戦投入を急がせたい所である。

 最近では小型パルス電源の開発に成功していて、瞬間的にかなり高電圧を魔石から取り出す事が出来る様になってきている。

 それにより銃身が50cmくらいまで小型化出来ている。あとは認可が降りるのを待つだけである。

 レールガンは火薬を使わないから火器にはならない。なので許可されている9mm拳銃以外では、一般人の我々でも使用出来る。グレーゾーンではあるが…

 使用する魔石が5cmの大きさの物になってしまうが、魔石1個で大体50発は撃てるようだ。それで弾速は小型ながらに初速マッハ1を優に超える。破壊力は火薬式の大砲を超える。これは使用する魔石から取り出せる電圧によって変わってくる。と言っても無いものねだりになっててもしょうがない。

 

 取り敢えず我々は明日、トウキン工業の探索部に行くしかない。彼のパーティーをウチに引き込めれば今後の魔石集めもかなりはかどる。そして奥に行くならあの火力が役に立つであろう。


 どちらにしてもスカウトしないという選択肢はない。


 マサを呼んで説明しよう。休日だけど、私の実家に住み込みで世話役をしてくれるので、いつでも呼べる。


 結局静香以外が集まった。


「皆、あの動画はみました?」


「ええ、お嬢。お嬢と静香嬢のゴキの巣には笑わせて頂きましたよ」

 とマサが言って皆でニヤニヤしている。


「それもあったけど、それじゃないのよ!」


「あーもしかしてトウキンの?」

 と察しの良いヒデが気付く。


「そう。トウキンの爆炎の帝王の動画よ」


「ええ、先程3人で一緒に観ましたよ。とんでもない威力でしたねあれは」

 と田中が答える。


「そうそれよ。その後の戦乙女のも含めて彼らは同じパーティーの様だったじゃない?」


「そうでしょうね。チョイチョイお互い映り飲んでいましたからね」

 とマサが言う。どうやら気付いていたようだ。流石だ。


「彼らに接触して、ウチに引き込みたいのだけどどう思う?」


 3人で顔を見合わせて、代表してマサが言う。

「いや〜どうなんでしょうかね。ダンジョンに潜っている目的にもよるんでしょうが。金か女か栄誉か名誉か。それによるんじゃないでしょうか?」


「やはりそうよね…どちらにしても一回接触してみようと思うわ。明日行きます。準備しておいてください。静香にも連絡を」


「「「わかりました」」」


 そう言って部屋を出ていく3人を見送ってから、またあの動画をみる。


 何度見ても身震いしてしまう威力である。何処からどういった物であれを撮っているのかわからないが、衝撃で画面が揺れるところがまた恐怖心を煽る。


 そしてその爆炎のフチにたたずむ彼の立ち姿を見て、神々しささえ感じてしまう。まるでこの世に終焉をもたらすかの様に。

 そして私の胸が鼓動を早め、締め付けられるのを感じてしまう。


 この胸の苦しみは何?






 

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