第27話 五ツ星 京香

 私は 五ツいつぼし京香きょうか23才

 日本有数の五ツ星商会創立者の一族で、五ツ星重工業の代表取締役社長兼CEOを祖父にもち、我社が持つ探索権を使用し、品川ダンジョンの探索者として日々を過ごしている。


 小さい頃より剣舞を習い、心身を鍛えるのが五ツ星流子育ての伝統であった。


 私は5年半前の「あの日」ダンジョンマスターなる謎の魔物が現れたのを、周りから聞いて知ってはいたが、私には関係無いと興味も沸かなかった。


 世の女子はダンジョンマスターを魔王様と持て囃し、崇拝すらしている方達も居るとか居ないとか。私は昔からそういう感情が一切沸かない。人の色恋沙汰や好きなもの、嫌いな物で盛り上がる女子が大っ嫌いだった。


 私の邪魔さえしなければ関わることはないと思っていた。


 お祖父様の会社がダンジョン探索権を獲得し、品川からダンジョンへ入って魔石なるエネルギーの塊を獲得するための探索者を募集し始めるまでは。


 大学を卒業し、グループの関連企業への就職が決まっていた所までは良かったのですが、お祖父様がダンジョンの中で取れると言うエネルギーの塊である魔石を大量に獲得できれば、グループの躍進に繋がると大いに盛り上がってしまった。


 そこで年も若く、剣舞の腕もある私に白羽の矢が立ってしまったわけである。


 ダンジョン内で大量に魔石が取れれば、私の評価もあがり、五ツ星重工業内に良いポストを用意して頂けると言う約束を取り付ける事が出来たので、嫌でも頑張るしかない。


 と言っても、自衛隊の調査記録を確認してみても、私一人ではどうにもならないと思われるので、昔から世話役を努めてくれているマサとヒデ、運転手の田中、あと募集で集まった女の子で、世界陸上の元七種競技のクイーンオブアスリート、新井あらい静香しずか23才(同い年)を加えた5名でチームを組み、トレーニングを開始した。


 ウチの運転手と世話役は、当然一般人ではなく、護衛も兼ねているので、戦闘能力は、かなり高い。そしてクイーンオブアスリートと言われる七種競技のチャンピオンである静香の身体能力は言わずもがな。


 そして、探索許可が降りるまで、鉱山ダンジョンの自衛隊の施設で半年ほどトレーニングをした。

 他の企業の探索者も同じ施設でトレーニングをしていた様だが、そんなのは知った事ではない。


 法が整備されて品川のダンジョンにもぐれるようになってからは、手前の雑魚は、他の探索者に任せて、私達五ツ星重工探索チーム「チームΑ」(アルファ)は、大物狙いでドンドン奥へ入っていく予定だ。獲物2~3匹目で長剣スキルを取れた。スキルブックを使うと、今迄研鑽してきた私の剣舞が、極みに達したのがわかった。


 私は目につくものを片っ端から倒して行った。


 そうしていると、どうやら人型の犬、通称コボルトという魔物の集落にたどり着いてしまった。


 家屋が10~15、見える敵だけでざっと50~60体は居たようだった。道中にもコボルトとは戦っていたので恐れることはない。タダの雑魚だ。


 私は飛び出して行って、目に付くコボルトを片っ端から魔石に変えていく。


 他のメンバーも後に続き、私の援護をしてくれている。マサとヒデは盾を持ち、田中と静香は拳銃を撃ちまくってる。


 多分50匹くらい倒した時に、いきなり突風が吹き、身体に衝撃を受ける。


 ウチの戦闘スーツは、特殊繊維で作られており、そう簡単には刃物などは通さない。ただ衝撃は伝わってくる。


 かなりの衝撃だったが、動けない程ではない。それに生命値は、5%も減っていない。


 周りを見回して見ても、犯人はわからない。わからないなら簡単だ。全員殺せばいい。私に刃を向けたことを後悔させてやる。


 そうこうしていると、また突風が吹き衝撃がくる。だが私は見つけた。一回り大きいコボルト数体が雑魚に守られてこっちを見ているのを。


 おそらくあのどれかだ。どれでもいい。どうせ全員倒すのだ。


 マサの「お嬢!」という声を無視して、その団体に突撃する。なんてことはない。


 メンバーも舌打ちしながらも援護射撃をしてくれている。多分舌打ちしたのはマサだ。


 大き目のコボルトが、一瞬呟く様に口を動かしたのがみえた。何かしたのだ。第六感が反応し、横に飛び退くと、今迄いた場所に、風の塊がぶつかる。あれが魔法のモーションか。もう覚えた。


 その後は、一方的に屠る。大き目のコボルトは3匹とも5cm大の魔石を、雑魚は2cm大だったが、トータルで120個近く取れたので良しとしよう。


 スキルブックと魔法スクロールも何冊か取れた。


 その中に、一回り大きかったコボルトから「身体強化」「二刀流」「バトルダンス」なるスキルブック。


 魔法スクロールは、「エアブラスト」「エアカッター」が出ていた。


 スキルは、全部私が使う。魔法は要らない。


 「身体強化」はそのまま、「二刀流」は両手に1本づつ武器を持って戦えるようになる。ある意味、両手が利き手になるって感じ。

「バトルダンス」は、使うと次どう動けばよいか、頭の中にイメージが流れてくる。剣舞と近いものがあるので、まるで私の為にある様なスキルである。


 その後も周辺を探索すると、何かが木にぶら下がっているのが見える。蜘蛛だ。それも大きい女郎蜘蛛である。足が長く、鋭い牙を持ち、糸を飛ばしてくる。


 そして周りにはそれよりは少し小さい蜘蛛が20~30はいるであろう。


 幸い蜘蛛は巣のこちらがわに全て居るので、スキルをフル活用して、殲滅していく。

 身体強化だけでも充分なほどのブースト感であるが、バトルダンスも使って、滅多切りである。そして呆気なく討伐完了。


 静香が暇すぎて不貞腐れてしまったので、蜘蛛から出た、スキル「蜘蛛の糸」と、宝箱から出た「魔法攻撃力小アップ」と「防御力小アップ」をあげた。私は「物理攻撃力小アップ」をコッソリ使ったけど。


 静香に上げた「蜘蛛の糸」は、どうやら敵の動きを遅くする効果が有るみたいだ。

 これで私の戦闘が幾分らくになりそうだ。


 初日はこの程度にして帰社。ダンジョン省に本日獲得した魔石を全て渡して、会社に戻る。


 会社と言っても、ダンジョン省の向かい側に元々五ツ星グループの所有するビルが有ったので、1~3階を探索部と言う新しい部署を作り、私が責任者を務める事に。その上の階から、ダンジョン探索者用に、寝泊りができる寮のようなものと、食堂、大風呂、サウナ、娯楽施設、トレーニング施設などを完備しただけのなんの変哲もない20階建てのビルである。品川駅のすぐ近くなので、外に行けば幾らでも遊ぶことが出来るので、特別感は無い。それなのに探索者は皆、ここに喜んで入寮している。


 そのビルの2階にある大会議室にて、本日の探索の報告を他のチームから聞いて本日の業務は終了する。


 




 


 


 

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