第22話 性能実験
現1班と5班は驚愕する。と言うか、ここにいる探索者全員だ。
ただ実際は5班の物だからウチの班は関係ないのだが。
5班のリーダーのヤスは震えていた。当然である。むしろ全員震えているから。
「…あのナイフの所有権は5班にありますので、交渉は5班とやってください」
「わかりました。」
と佐藤顧問はヤスの方に向くと、ヤスは俺の方を見て、首をぶるぶる振っている。そして立ち上がり、
「まだ売るかどうはわかりませんが、我々としては、所有権と言うよりは使用権と認識しています。使用権は確かに我々5班にありますが、それはナイフの鑑定が終わったあとは我々5班が使用するというだけで、手元にナイフが来ないなら、それはまだ当時の4班、現在の1班との共有物です」
とヤスが言ってくれた。大変有り難い事ではあるが、10人で分配しても一人1億である。
当然それだけの価値は有るか。なんせそのテクノロジーの解明が出来、トウキン工業で特許を取れば、天文学的な利益が舞い込む。
ウチのメンバーも5班のメンバーもどうして良いか解らずに、俺とヤスと佐藤顧問の動向を見守っている。
「わかりました。そこら辺はそちらにお任せしますので、売るなり使うなりが決まったら仰ってくれれば良いですからね」
佐藤顧問はそう言って笑っている。
どうするんだこれ…意味がわからない。
でも1つだけ解ることがある。それは最初の1本目だから10億なのであって、先を越されたら価値は下がる。まぁ我々は2本目がすでに有るんだけども……。
これは売りどきか?
我々1班と5班で食堂へ移動して、協議をした結果、ナイフを売ることにした。
これは決してお金が欲しいからではなく、技術進化がもたらす我々探索者に充てがわれる、武器や防具の発展に期待しての事だ。
もちろんお金も貰うけどね。
税金などは、どれだけ引かれるかわからないけど、半分引かれても5千万円である。探索者ヤベー!!夢とロマンを追求してたら大金が手に入ってしまったが、そんなことで俺の探求心は収まらない。ダンジョン攻略はしちゃ不味いから多分やらないだろうけど、行ける所までは突っ走る覚悟である。
それはウチの班以外も皆、同じ気持ちであった。
それにしても金の使い道をどうするか話している。
もう少ししたら、多分第二期の内定者達がここの寮に入ってくる可能性がある。寮としては、まだまだ収容出来る広さはある。ただ共有スペースなど、ゆっくりする場所がなくなってしまうかもしれないので、俺らの班は、ここら辺の近くに一軒家を買って、そこをシェアして住んでも良いかもねと話している。金はある!3班15人くらいは住める建物でも良いかもね。結局小さい寮になるだけだが。
今後の会社の方針もあるだろうから、部長と相談しながら進めて行こうと言う感じに纏まった。ひょっとしたら会社が新たな寮を建てるかもしれないしね。それか普通に一期が追い出されるか。
★★★★★
翌日、探索部部長の有馬さんと、開発部部長の中川さん、研究員何人かと、佐藤顧問と一緒に、1班はダンジョン内に居る。
ナイフは売ることで合意しているのだが、ハルバードの方の性能を調べたいと言うことで、今日は魔石をハメて、色々なコードの繋がった巻藁での試し切りを、色々な計器の前で行ってみることになった。俺とヤマは撮影担当だ。
昨日保留にしていたスキルブック「パワースラッシュ」は結局アキに使ってもらうことになった。槍術も持っているのでハルバードをアキに使ってもらおうと話が付いたからだ。
ハルバードには、4cmまでの魔石がハマることが解り、研究員が提出してくれた魔石を2cm〜順番にハメて振って見る事になっている。
まずは何もはめずに通常での攻撃を、竹が芯の巻藁にあてる。普通にスパッと竹ごと綺麗に藁が斬れる。
次に2cmの魔石を入れて見る。蓋をするまではカラカラ音が鳴っていたが、柄頭を嵌めると音が無くなり、ボンヤリ光り出したように見える。俺らは感動しているが、研究員はナイフで試していたのかそこには驚かない。
アキが巻藁の前に立って振りかぶる。そして振り下ろした途端に、少しだけ加速したように見えた。そして切り口が少しだけ焼けている。
刃が燃えているわけではなく、多分摩擦で焦げたのだと思われる。
これには研究員も驚きであった様だ。
次は3cmの魔石を嵌めると、先程よりは解りやすいくらいには光っている。
そして振りかぶり、振り下ろす瞬間、明らかに加速する。そして巻藁が爆散した。
斬属性の武器で爆散するって衝撃波かなにか?
研究員は半泣きで感動している。4cmの魔石の攻撃を見たら、この研究員達はどうなってしまうのか心配である。
さあいよいよ大トリである。4cmの魔石をセットすると、ライトセー○ーほどてはないが全体的に完全に光っていて、眩しい程ではないが明るい。
そして振りかぶる、そこですでに加速したように見えた。そして振り降ろす瞬間、一瞬輝いて凄まじい加速が生まれた。ギリ目で追えるほどのスイングスピードである。そして武器の尖端から轟音が鳴り、白い雲のような衝撃波が発生したのが一瞬見えた。いわゆるソニックブームである。音速を超えた超音速ということだ。
巻藁に当たった瞬間、巻藁が消えた。いや消えた様に見えたが正しいか。完全に一瞬で木っ端微塵である。当然俺に原理がわかるわけもなく、啞然とする。
研究員は開いた口が塞がらない様だった。
ヨダレと鼻水垂れてますよ?
「これは森の浅い層で燻ぶるレベルでは無いですな」
と開発部部長の中川さんがボソリと言うのが聞こえた。
俺もそう思う。これなら先に進んで行ける自信がある。
ただ、回復魔法が無いのが心配の種ではある。ポーションも何本か持っているが、何が起こるかわからないので、ヒールは覚えておきたい。そうなると、蟻塚が狙い目ではあるが、我儘かな?
奥に行く許可が降りるかもわからないし、俺ら探索者は所詮サラリーマンである。
そんな事を考えていると、
「く……腕が……」
アキが武器を手放し、両腕を抱えて座り込んでしまった。
どうやら、的の抵抗が小さすぎて、振り抜いた後に踏ん張って、その拍子に腕の筋肉が切れてしまったようだった。
まだ4cm大の魔石のパワーには身体がついて行けてないようだ。
ウチの班では初めて、手持ちのポーションを飲ませてみると、筋断裂は治ったようだ。
味はゴーヤの味がするらしい。知らなかった。きっと薬草をすり潰して作るのがポーションだから青臭いのかな?と勝手に老婆が薬草をすり潰しているシーンを想像する。
それでもこの武器類は凄い。魔石1個でどの程度持つかわからないが、自給自足出来る魔石なら、ほぼ無限に使えそうだ。あとこの武器は槍術で良いらしい。アキの動きが最適化されているのが分かる。
巻藁はまだ10本位有るので、コズが我慢できずに自分の右ストレートも測ってくれと懇願している。これはこれで研究データが集まるんじゃ?と思っていると、向こうも同じ考えのようで、巻藁3本分がコズに充てがわれる。
意気揚々と巻藁の前で構えて、まずは普通にフルパワーでストレートを撃つ。根元ごと吹き飛んでいく。まぁそうなるわな。
次の巻藁を準備し、構えて次は助走を付けてヘヴィショットを乗せた右ストレートを撃つ。
根元はそのままに、当たったところが木っ端微塵になり、上の部分が少し飛んでいく。
そしてメインイベント、フル乗せである。
縮地で一気に距離を詰め、ヘヴィショットを乗せた右ストレートが巻藁に当たった瞬間に、巻藁が根元から全て木っ端微塵に消え去った。
実験に参加している全員が、口を開いたまま、何も発せない。
この結果だけ見ると、木っ端微塵度はコズの方が凄く感じるが、所詮は竹に巻いただけの代物である。竹の耐久力を越えればすべて木っ端微塵になる。なので完全にどっちが凄いかはわからないので、こういう時は、「二人共凄いじゃない!」と褒めるのがきっと正解。
二人共胸を張ってドヤ顔である。
いつか腕ガードに魔石をハメて、疑似人間ロケットパンチが撃てるようになるのだろうか。
我々の実力は示せたので、後は上がどう判断するのか、奥に行きたいとは一言も言っていないが、我々が浅い層でウロついている方が無駄になっていると思ってくれれば幸いだ。
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