第20話 南側のあの子 ★

 無事、蜂の巣討伐は完了した。雑魚からは4cmの魔石と、女王蜂は6cmの魔石とスキルブックが1冊、魔法のスクロール1冊、魔物の素材はおそらく毒針をおとしていた。女王蜂の毒針のほうが雑魚のより太くて長い。それらを拾い佐藤さんに渡した、巣の中を物色する。1班の遺品があるかも知れない。


 あったのは、肉団子にされ、半分喰われているがおそらく元人間であろう血の滴る遺体が4体。蜂は食事中だった様だ。


 それと宝箱がある。宝箱の中身は佐藤顧問が開けていたので覗いてみると、スキルブックが3冊入っているのが見えた。そして遺体を麻袋に入れて外へ運ぶ。それと周囲を捜索し、武器などの遺品を探すべく散開する。


 しばらく周囲を探していると笛の音が聞こえてきた。誰かが見つけたのだろうと、音の方へ向かっていく。


 そこには1班の物と思われるカバンと武器切り刻まれた衣類が放置されていた。それらを集めて大きい鞄に入れ、手を合わせてから立ち去る。

 皆が手を合わせていたのを横目に見ながら。


 辺りが暗くなってきたので、早足でギルドに向かう。誰も何も喋らず、黙々と歩いていく。


 同期の不慮の事故を受けて、皆思い思いギルドに帰ってきた。


 もっと強くならなければならない。まだ全然浅い層でこれでは話にならない。そう強く思った時、コズに声をかけられた。


「イソ、怖い顔をしてるよ?思い詰めちゃダメだよ?」

 と上目遣いに言われた。抱きしめたい衝動をグッと抑え、


「もっと強くなろうな……」

 とコズの肩を叩き、他の仲間を見回した。みんな頷いていた。


 今日はもう遅いので、佐藤さんに魔石の手続き等任せて、食事を取りに食堂へ行く。


 食事の間は、お通夜の様に皆暗かったが、5班のリーダーのヤスが酒の入ったグラスを手に持ち立ち上がり、「1班に…」と言ってグラスを挙げる。皆もそれに習ってグラスやマグカップなどを挙げ、「1班に」と続いた。少しだけ空気が軽くなるのがわかった。


 こういう行為の大事さがよくわかった。


 その後は1班のメンバー達との訓練の時の思い出話しで無理やり盛り上がる。これが俺ら流の弔いだ。


 そして翌日からの2連休、土曜日は部屋でゆっくり読書などをして過ごし、日曜日は4班の皆で、街に繰り出した。今迄気にしていなかったが、私服姿のアキがめちゃくちゃモテることがわかった。すれ違う人が大抵振り返って見てくるが、隣にゴリマッチョのヒサが居るので、誰も近づいて来ない。


 声を掛けられても、ハイキックが飛び出しちゃいそうで気が気じゃない。


 そんなことも考えながら、かなり気分転換ができ、久しぶりに人並みな休日を過ごすことが出来た。仲間に感謝である。



        ★★★


 壁一面にモニターが掛けられてる部屋に男女2名が、大きいスライムの上に乗って話している。


「雫、北側の転送門から来るチームVS蜂の戦闘見た?予想より一方的だったよね」


「うん、見たよ。その前のは亡くなった人も居たよね、あっちはちょっと見てられなかったけど…」


「でも、蜂の巣置いたのシズクじゃゴニョゴニョ」


「ん?何か言った?」


「いや何も言ってないよ?それよりこの人のスキル、面白いの持ってるね」


「あー蜘蛛のやつ?あれは凄いね〜あの糸の強度がちょっとおかしいきがするけど…」


「この人のパーティーが女王蟻、土蜘蛛、女王蜂を討伐してるんだよな」


「へーそうなんだ。そういう星の元に産まれてきた人なのかもね。トラブル体質とか笑」


「あとこの南側の転送門から来るこの子、見た?」


「あ〜見たよ。ちょっと周りとは次元の違う強さだよね。アレの巣もアノ子達の集落も南側は全部この人のパーティーが殲滅してるんでしょ?」


「そうなんだよ。スキルもそうだけどパーティーのサポートが厚いよな。今の所この子のパーティーが1番魔物を討伐してるんだよな。隊服もボディスーツで1番美人さんムニャムニャ」


「ん?また何か言った?」


「いんや、雫は可愛いなって言っただけだよ

笑」


「も〜ヤメてよね〜兄妹なんだからね〜も〜」バシバシ、テレテレ、ハイハイ


「そして喜んで良いのか、遂に生物の魂を4つ得ることが出来ました」


「ん〜…喜べないけど喜ばしいね…これでワタシ達の星『リ・アース』に新たな生命が誕生するんだよね?」


「そのようなんだけど…リア?そこの所はどうなっているの?」


『お答えいたします。本日4つの魂をダンジョン内で獲得致しました。こちらの魂はDPを使用して、形を変えることも可能となっています。この魂の入った生き物で『リ・アース』の開拓をすることも可能となってきます。モンスターと違いこの魂の入った生き物は、睡眠を取り、水分を補給し、食事をし、排泄をし、交尾をする。そして自分で物事を考えて行動することが出来るようになります。そして交尾をすることで数を増やして行くことも可能となっております』


 リアとは、チュートリアルでお世話になったダンジョンコアのパツコさんである。雫が命名したのだが、惑星名「リ・アース」で、そこから取ってリアと呼んでいる。


「まるで地球上の生物と一緒だね」


『はい。ですので今後は衣食住の用意も必要となってきます。現在あるエリアに解き放つとモンスターとの接触や、探索者との遭遇がある可能性がありますのでエリアは離したほうが良いと推測されます』


 成る程ね。なんだか仕事が増えて来たけど、やり甲斐と責任も増えてきたな。そして魂を手に入れてしまったので、もう後には引けなくなってきた。まだ探索者も手前の方にしか来ていないので魂の獲得もまだまだこれからだ。


 とりあえず今回得た4つの魂は保留としておく。先ずはエリアの制作とモンスターではなく、動物から放つのが良いのかな。思案のしどころである。



        ★★★



 月曜日の朝、朝礼で亡くなった1班へ黙祷が捧げられる。それから柔軟をしてから、一旦集合させられた。


 金曜日に出たスキルブックと魔法スクロールを配るみたいだ。


 雑魚からはスキルブック6冊 魔法が4冊


「長剣術」「ナイフ術」×2「槍術」「隠密」「縮地」


 長剣と槍は初めて見た。

「隠密」はまんま敵に見つかりにくくなると思う。

「縮地」は一瞬で、距離を縮められるのだと思う。


 魔法は「ウィンドアロー」×2「ウィンドカッター」「ウィンドウォール」

 まぁ雑魚敵からのドロップだからね。


 女王蜂の魔法スクロールのドロップは

 魔法「エアブラスト」のスクロール

 スキルブック「スティングストライク」


 魔法の「エアブラスト」は圧縮した空気を打ち出す、みたいな?ちょっとランクが上っぽい魔法だなぁ

 スキルブック「スティングストライク」は毒針を投げるとかそんな感じ?


 そして宝箱から出たスキルブックは

「物理攻撃力小アップ」「魔法攻撃力小アップ」「防御力小アップ」


「女王蜂は魔石も6cmだったからランクが違かったのかな?」


 と気になったことを口に出す。


「可能性はあります。魔石の大きさは、魔物の強さに比例しますから魔石が大きい=ランクが高い」


 なるほど。今迄で1番の大物を皆でそれこそ「蜂の巣」にしてやったってことだね。


 ニヤけて居ると、ヤマと目があってしまった。イヤン…恥ずかしい。


 気を取り直して、8班での分配だから希望のアイテムを伝える入札制に。俺らは第一希望の「隠密」を手に入れることができた。これはヤマ用だ。こないだのヤマの斥候がかなり有効だったので、そちらの方面を伸ばしてもらう事で話しはついている。ヤマ本人も乗り気だ。


 そして何と「魔法攻撃力小アップ」も頂けた。そして何も言わずに俺の物らしい。後衛バンザイ!


 分配が終わった後、探索部の人が一抱えの装備を持ってウチの班に近づいてくる。


「片桐さん、安藤さん、頼まれてた防具が出来ましたので確認を願いします」


 と言って装備品を机の上に置く。


「わーもう出来たんですか?」と嬉しそうにコズが言いながらグローブの様な物を手にハメる。


 それを俺の知ってる単語で語るなら、「メリケンサック付きガントレット」と言うしかない。


 デカ目のメリケンサックは指の第二関節から第三関節を丸々守るように金属で出来ていて少しだけ中心に向かって尖ってる。


 それと手の甲、腕の外側にも鉄板が充てがわれていて、メリケンサック部分、グローブ、腕ガードが一体化している。


 攻防一体の腕ガードであるが、コズは今後こっちで行くのだろう。ナイフを握る余地はない。


 そしてアキは膝下から足の甲までガードされた、表面に鉄板が充てがわれているレガース付ロングブーツを装着する。よく今迄スネで蹴れていたものだ。


 それにしてもこれを作って貰うためにこないだ相談していたのか…。爆裂娘達が…。


 でもこれで強くなれるなら、やらない手は無い。

 なんだかウチの班はかなりの戦力アップをしたのではないかな?


 

 


 


 



 

 


 

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