第19話 蜂の脅威

 俺らは今日の探索を終え、ギルドに帰ってきた。


 すると、いつもは暇そうな転送門広場の職員達が騒然としている。


 どう考えても何かあった事は確実だと思い、メンバーを見渡すと皆頷いてくる。


 代表して俺が近くにいる職員に話しかけようとしたとき、佐藤顧問が慌てて駆け寄ってきた。


 佐藤顧問が居るという事は、ゴブリン討伐は無事終わったようだ。


「おぉ4班が帰ってきたか、緊急事態だ。残念な事に1班が魔物の集団に襲われ壊滅した。メンバーの一人が命からがら逃げてきて簡単な報告は聞けたんだが、残念ながら…」

 と口を紡ぐ佐藤顧問。


「亡くなったんですか?」

 と尋ねると、佐藤顧問は悔しそうに頷くだけだ。


 俺も含めメンバーに緊張が走る。


「何があったんですか?」


「…どうやら1班の担当エリアの何処かに蜂の巣があるらしく、最初は一匹二匹と普通に退治していたらしいのだが、奴ら危険を察知し、蜂の仲間が大量に襲いかかって来て、気づいた時にはすでに逃げ道は無かったみたいだ…」


「蜂か……」


 蜂はヤバい。おそらく蜂のテリトリーに知らずに入り、最初の2匹は警戒行動を取っていたのだろう。それを倒した時に、警戒フェロモンを掛けられたから、本隊が襲ってきたのだろう。まさにスズメバチの行動である。


 通常、地球のスズメバチであれば重度のアレルギーさえ発現しなければ、何か所か刺されても死にはしない。ただここのダンジョン産はデカイ。


 そうなると毒の量も多くなるし、キバで噛みつかれれば、下手したら首を持って逝かれても不思議はない。


 それにスズメバチだとしたら、襲われた人間は残念ながら団子にされて巣に持ち帰られている可能性が高い。


「出来れば現場の確認と、最悪は遺品でもあれば持ち帰って上げたいのたが…、今それの有志を募っている。過去にスズメバチに刺された事の無い人間で、参加しても良いと思う者は、転送門の前に集まってくれ」


 そう言って佐藤顧問はまた、走って事務所の方に消えていった。


 メンバーを見渡し、どうするか尋ねると


「わたしは行くよ。仲間が殺られて黙ってはいられないからねぇ」

 と闘志を燃やすアキ。


 みんなも同じ気持ちのようだ。


「やったるか!」とヒサも熱くなっている。


「みんな、過去にスズメバチの被害は無いんだな?」


 俺はみなを見回し尋ねると、「平気」と返事が来た。


 当然俺も行く。同じ釜の飯を食い、ともにトレーニングをしてきた仲間が殺られたのだ

ここで行かない事など有るはずがない。そこまで俺は腐っちゃいない。


 転送門の前に行くと、すでに全員集まっていた。ただ6名は過去に被害をうけたらしく参加は見送るみたいだ。3班はまだ病院に入院中だ。


 完全装備の佐藤顧問が現れ、「ありがとう。感謝する」と頭を下げた。


 感謝される事でもないが、時間が無いのも事実である。ここのダンジョンは昼夜があるため、もう少しすれば暗くなってくる。


「1班エリアの把握は平気ですか?平気なら時間が惜しいので、行きましょう。森から3km地点まで移動してから散開しましょう」


 佐藤顧問の指揮にみな頷く。


 かなりのペースで走って行く。木々など有って無いような物である。他の班もしっかり付いてきてる。特段自分らが1番成長してるとは思っていないが、5班としか合同任務をしたことがなかったので、他の班の能力を知ることができ、こんな時ではあるが新鮮である。


 3kmを5分掛からず走り抜けた。とんでもない速さであるが、まだ皆余裕がある。


 当然これからが本番である。作戦としては

各班散開し、単独の蜂を探し、マークを付けて逃げる。皆が集まってからその蜂を倒して、巣から増援の来る方角を調べて皆で攻め込む。蜂を全て倒してから1班の捜索となる。


 散開後、4班も移動を開始する。ヤマのスキル超音波は今では半径10mまでの周囲を把握出来る。これはかなり有用だと思う。


 ほんの数分歩いたとき、ヤマが「止まれ」と声を掛けてくる。「この先に居る」と言い緊張が走る。


 ヒサに先頭に立ってもらい、蜂が来たら引き付け、そのすきに鈴を足に付ける。という流れで行く。


 まずは少しづつ近づいていく。スズメバチはテリトリーに入れば向こうから警告のために来てくれるので、その距離まで近づいていく。


 「来てる」とヤマに言われヒサが盾を構える。俺は鈴を付ける役目だ。貧乏クジ担当になってきている。他の3人は離れて待機。下手に攻撃して怒らせると作戦失敗である。


 蜂が姿を現す。デカイ!!50cmはある。そしてデカイ蜂はめちゃくちゃ怖い!!そもそも姿が見えてない時から羽音が聞こえてた。


 コズに笛を吹いてもらい、周りに発見を知らせる。


 その間ヒサが盾を構えて、そっと払う様な動きをする。まだ蜂は怒っていないので、周りを飛び回るだけだ。そして盾を突きだすと、先端に停まってキバをカチカチ言わせ始めた。これはヤヴァい、最終警告だ。俺は急いで後ろから足に鈴を付けることに成功し、ヒサと一緒に逃げる。


 軽く追ってきたが、すぐに引き返していく蜂をヤマが距離を取って尾行する。


 俺らは待機し合流を待つ。5分もしないウチにあらかた揃うので、ヤマが追いかけて行った方に皆で移動する。


 その間に蜂の大きさなどを説明すると、皆目を丸くしていた。


 しばらく歩くと前からヤマが近づいてきて「この先30mの地点に巣がある」とスキルを使って調べたと言っている。


「ここからは全て殲滅していきましょう」 

と佐藤顧問の指示に従い、全員武器を構える。俺は佐藤顧問に

「スキルがあるので先頭を行かせてもらいたい」と言い許可をとる。


 ヤマと並んで先頭を歩き、ヤマが「二匹来る」と言うので、蜘蛛の糸で絡め取る。その時に霧状の毒を飛ばしたのが見えた。


 周りはスキル「蜘蛛の糸」を初めてみて、感動しているみたいだ。フフフ見たか、と少し得意になる。


 拳銃で二匹に止めを刺し、魔石に変える。拳銃は至近距離からなら、充分通用しそうだ。みんなは蜂のデカさに驚いている。そして魔石の大きさは4cmサイズ。兵隊アリと一緒だ。そしてスキルブックと素材の蜂の針が出るが、佐藤顧問に預けて先に進む。


 ヤマが「一気に来る」と言うので、皆で待ち受けてると、先程の毒霧のフェロモンに引き寄せられる様に凄い速さで飛んでくる。


 すげー怖い!!だが殺らなきゃ確実に殺られる。先頭に向かって蜘蛛の糸を放つと5匹纏めて絡め取れた。それでもまだ30匹くらい向かってくるので皆で拳銃を撃ちまくる。


 怖ささえ克服してしまえば、真っ直ぐ飛んでくる蜂などただの的である。こっちは40人はいるんだから、楽勝である。俺は魔法を使いまくる。賢くなりたいからね。賢くなれば威力と使用回数が増えるからだ。


 こちらは無傷で取り敢えず1波目を凌ぐ。魔石と素材の針、スキルブックと魔法スクロールが10冊くらい出たが佐藤顧問に預けて、巣に近づく。


 巣がデゲェェー!!木にめり込む形で、直径10m位で少し縦に長い。そして、巣の周りにまだ10匹くらいは居る。ヤマは巣の中にもまだ10匹居ると言うので、残り合計20匹。すでに倒した蜂のも入れると全部で60匹弱、これでは単独班では残念ながら手に負えない。しかも急襲されたら尚の事。


 さあやりますか!と佐藤顧問の方に顔を向けると頷き、「行きますよ」と皆に声をかけた。


「おう」と言って全員で蜂の巣を拳銃で撃ちまくる。魔法を使える人は魔法を使う。

 

 火、風、土、氷が飛び交う。火魔法良いなぁ、と考えながらストーンバレットとアイスアローを代わり代わり撃っている。あれ?ストーンは土ではない?と考えていたら終わっていた。


 ヤスはまだ巣に3匹居ると言うのでウチのエースの出番である。


 コズが例のごとくナイフを握り、巣に向かって走り出す。ヘヴィショットの右ストレートを巣に打ち込むと、一発で前面が吹き飛んだ。全員唖然としていた。


 得意気なコズを置いて、皆で巣を囲み、中を確認してみると、1mくらいある女王蜂と普通サイズを2匹見つける。なんかもうサイズ感には慣れてきた……。


コズのお陰で射線が通るので、一斉に射撃する。数の暴力である。女王蜂と通常サイズの蜂は、呆気なく消え魔石となった。


 











 






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