第17話 救援要請

 本日の蟻塚攻略は終わり、分配も終わったのでちょっと早いが昼食にする。森の中と違って、拓けている場所は気持ちがいい。


 明日の作戦会議もソコソコに食事をしながら雑談を始める。スキルの補正の話とか魔法の話等、他愛もない話をしていると、何処からか救援要請の信号弾が上がる。


 甲高い音を発しながら、赤色の煙が尾を引いて、救援要請元が解るようになっている。


 これが上がると言うことは、無線は使えない状態という事だ。


 訓練時から救援要請が出たら、最優先で駆け付けるよう、教官から口を酸っぱくして言われていたので、緊張がはしる。


 食べ物などはそのままに、皆の顔を見回し走り出す。皆も遅れず付いてくる。


 道中、早速ヤマの「超音波」スキルを使ってもらって先を急ぐ。


 おそらく3班のエリアで何かあったぽいので、我々が比較的近い。それでも3kmくらいは離れているので、我々の今の能力でも5~6分は掛かる。それでも急ぐ事しか出来ない。


 森の中に入ると、救援要請元が解りづらいが方角を頼りに突っ走る。


 そうすると3班のメンバーの一人が、腰を抜かした状態で座って震えていた。

 この子が信号弾を撃ったみたいだった。


「大丈夫か?何があった?」俺は息を整え、手短に聞いた。


「ク……ク……」ぶるぶる震えながら


「クモが……」と絞り出す。


「クモか……」「ヤマ、超音波で索敵を」


 俺は超音波の性能を知らんのだが言ってみると、ヤマは頷いて答えた。


 蜘蛛に限らず、そもそも生物として昆虫は怖い。地球上でさえとんでもない能力なのに、ここダンジョンの中では、奴らはデカイ!ノミなんて目に見えないのに、50cmくらいジャンプが出来るとか、質量と筋肉量の関係もあるから、ただ倍々になるわけではないが、人間より能力は上になる。そんな昆虫を取って食う蜘蛛が弱い分けがない。ちなみに蜘蛛は昆虫ではない。 


 まあこっちもすでに人間レベルは超えてるけど…


「こっちの方向におそらく2人倒れてる。すぐ近く」と指を差す。

 我々は慎重に近づいて行く。


 10mくらい進むと2人倒れている。まだ

息があるので、5班のミユにヒールを頼む。


 俺らはミユともう1名残して進む。さらに20mほど進むと、居やがった!見えるのはデカい蜘蛛が1匹に小粒が10匹くらい。

 糸の巣がないところから、徘徊性の土蜘蛛のようだ。

 多分タランチュラのデカい版だ。


 その蜘蛛の口元には、まさに今、麻痺毒を入れられ止めを刺されそうな男が付属肢により抱え込まれている。もう一人は気を失ってそうだがまだ平気っぽい。取り敢えず拳銃を構えてこちらに気を向けさせる。なんとかプロテクターが守っているらしく、トドメを差せていない。


「ヒサ、デカイの頼む、毒があるから気を付けろ、口元の付属肢で抱え込まれないように。その他のメンバーで小粒を」


 大気中にキラキラ輝いているのは蜘蛛の毛だろう、ペットの蜘蛛程度の大きさなら、カユイで済むが、このサイズだとどうなることか。

「ヘルメットのシールド降ろせ、毛が舞っているぞ」

 と、みんなに注意を促す。


ヒサに親玉を任せている間に小粒の始末を始める。

 だが小粒の動きが速い!それでも拳銃を連射し、近づく蜘蛛をナイフで斬りつけ、なんとか数を減らして行く。


 ヒサ独りじゃ心配なので、俺も親玉の方に行くが、ヒサはスキルの「硬化」と盾を使い耐えていた。


 硬化中、身体は動かせないのかと思っていたが、関節は動いている。筋肉がカッチカチなのかな?と考えながら、親玉に向かって後ろからアイスアローを撃つと、身体にぶつかって消えた。そしてナイフで削って行く。

 

 蜘蛛の一瞬の動きがかなり速く、ヒサに飛び掛り、抱え込もうと襲いかかっている。


 だがヒサはまだスキルが効いているようで耐えられている。盾が耐えられるかの方が心配だ。そのうちコズとアキが援軍に来たので、スキルを使って貰う。


 アキはナイフで二段突き、蜘蛛の腹部は柔らかいので、かなり効果的に刺さり、体液を撒き散らす。


 そしてコズがヘヴィショットを蜘蛛の大量にある目の少し上辺り、多分脳天に思い切りストレートを打ち込む。


 するとあきらかに脳が揺れたのか、ふらつき始める。

 ここで一気に皆で畳み掛ける。


「とっととくたばれ、化け物が!」

 アキが叫びながらもう一度二段突き。コズも

「これでお〜わり!」

 かなり軽い口調でナイフを握ったまま強烈な右ストレートにヘヴィショットを乗せて脳天直撃弾で終了。

 

 コズ…ナイフの使い方間違ってるよ…確かに何か握って殴ると威力が上がるって聞いた事あるけど……うん。なんかウチの班の女子、ノウキンだわ。


 口には出せないけど。と思い、ヒサとヤマを見ると目があってお互い苦笑いする。気持ちは通じたみたいだった。


 それから後処理を始める。まず喰われそうだった男と、次に喰われそうだったリーダーの男は、麻痺させられて居たが、命に別状はなさそう。毒自体はたいして強くは無いみたいだ。でも帰ったら精密検査が必要だけど。


 そしてスキルブック2冊と魔法スクロール2冊、素材の糸も何個か落ちている。やはりこのランクの敵からは、素材もでる。そして蜘蛛の巣穴にはフンワリと糸が張ってある。その中に鉄の宝箱を見つけた。


 ドロップしたスキルブックは「不意撃ち」と「蜘蛛の糸」


 「不意撃ち」は多分気付かれてない状況で使用して使うことによって威力が上がるスキルだと推測する。隠密系のスキルだね。


 「蜘蛛の糸」は多分かなりレアなスキルだと推測される。捕まえるのか、動きを遅くするのか、タランチュラと一緒なら、センサーの役割を果たしそう。映画で有名な蜘蛛男ヨロシク移動手段に出来るのなら、やってみたい。


 そして魔法は、「ストーンバレット」と「アースウォール」土蜘蛛系だからアースなのか?とは思う。

 そうなると蟻も土っぽいけど、女王はヒール使えていたからヒールが出たのかな?

どうでもいいか。


「バレット」は弾みたいな物で

「ウォール」は壁だね。そのまんま。


 そしてお楽しみの宝箱だ!


 当然俺が行かされるわけで…もうビビらない!


 パカ……中にはなんと「ナイフ」が入っていた。


 見た目はかなり禍々しく、呪われてそうな形をしている。

 全長は30cm位で刃の部分は20cm。少し反っていて、背中側が何箇所か下に尖り、上に尖りしていて、ゴツゴツしている。このナイフを刺したら、抜くとき背側が引っ掛かり抜きづらそう……、色も刃は黒くて真ん中が赤紫、その境目は金。持ち手は握りやすいように指の形に凹みがある。そして多分、柄頭が外れていて中が空洞になっている。

 流石にこれはよくわからないので、持ち帰って調べてもらうしか無さそう。


 今回の戦利品はどう分配していいかわからないので、取り敢えず持ち帰ってミーティングで報告だな。


 魔石は親玉が女王蟻と同じ5cm、小粒が働きアリと同じ3cmの大きさだ。


 これも我々が提出していいのかわからないので、取り敢えず持ち帰り。


 3班がPTSDにならなければ良いけど、ケアは必要になりそう。


 まあ生きていただけ良かったと思ってくれれば良いけど。


 ちょっと早いけど、担いで行かないと行けないので、今日はここまでにしてギルドに戻る。


 蟻の分の魔石を提出し、書類にサインをするついでに、蜘蛛の魔石について確認を取ってみる。


「カクカクシカジカで、誰の物にするのが正解なんですかね?」と説明すると、倒したパーティーで良いと言われたので、4班と5班で分けることにした。怪我人をギルド内の医務室に連れて行き、宝箱から得たナイフの持ち出しが可能か質問する。


「火器類は持ち出し禁止となっております。それ以外であればこの書類にサインをしてくだされば、持ち出し可能となっております」

 と言われ武器持出許可書を貰い、我々は会社に戻る。


 ミーティングが始まり、本日の女王蟻討伐とドロップ品、救援要請に応えて、土蜘蛛との戦闘と、ドロップ品を報告し、所有権はどうするか聞いてみる。


「今回は、3班は一切戦闘に参加出来ていない様なので、討伐した班で良いと思いますよ」


 と探索部部長と顧問から、お墨付きを頂いたので、後で5班と分けることにした。


「それと、今回宝箱から出たナイフです。これの所有権の確認と、柄頭が外れて持ち手の部分が空洞になっているのですが調べて頂けますか?」


 と ナイフを取り出し渡す。


 トウキン工業は、家庭用家電メーカーではあるが、軍需産業のほうでも大手の一角を担ってる。というか家電メーカーは、ほぼどこも軍需産業の大手である。軍事用品を研究し開発したものが、家庭用に改良され、世に出てくる。


「しばらく預かっていいかな?所有権については上層部と、構造については開発部門で解析してもらおう」


 俺は班のメンバーを見渡してから、部長にナイフを預ける。


 そして他の班の報告に皆、言葉を失った。





 


 





 


 

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