第13話 探索者

 都内のとある一般家庭の2階で、兄妹が仲良く話をしている。


「雫、これどう思う?調査全然進んでいないよなあ?」


「そうだね兄ちゃん。そろそろ一般企業のダンジョン探索が始まる事だし、もう少し門を増やしてみるとかしてみる?」


「流石雫だ、それはいい考えだね」


 夜は静かに更けていく。


        ★★★


 ダンジョン暦4年夏、俺 磯山幹久 は筋力トレーニングに勤しんでいた。


 なんせ一般企業へのダンジョン探査委託が本格化しようとしていた矢先、いきなり転送門が新たに3箇所増えたのだ。


 当然自衛隊による調査が行われた結果、各転送門の先は、同じ大森林エリアの東西南北の位置に出るようだった。

 東京上では新たに品川駅(南)、東京駅(東)、上野駅(北)の近くの公園に門が出現していた。


 これにより、門1箇所につき企業が一社、探索権を与えられる形になった。


 おかげて就職浪人中だった俺は、何とか上野の探索委託企業である旧「東京金属工業所」現在の「トウキン工業」の探索部門に就職の内定が決まった。感無量であった。


 この「トウキン」は家庭用の家電製品開発、販売のメーカー最大手であり、この度の魔石の可能性にいち早く気付き、探索権の獲得に名乗りを上げていた大手企業である。


 まだ法の整備か整っていないので、本格的に探索が始まるのは来年になってからだろうと言われているが、身体を鍛えるのに越したことはない。


 トウキンの探索部の施設が上野のダンジョン省のすぐ脇に作られ、その中に社員寮が作られている。内定者は一足先に、そこで寝泊りが出来るようになっていたり、トレーニング施設が併設されていて、俺はそこで自主トレーニングに勤しんでいる。


 内定者50名プラスサポートメンバーが10名で、その内の半数弱が女性であった。女性内定者も同じ施設でトレーニングをしているから、当然顔見知りになり、色々な話しをした。

 

 どうやら女性探索者希望の9割は、魔王様推しのダンマス崇拝者達であった。


 その中でも特に仲良くなった女性が 片桐梢かたぎりこずえ20才、体育大学の短大卒で、例に漏れず魔王様推しの、まだ幼さの残る小柄で可愛らしい女性だ。


 そんな見た目の片桐さんも、探索者に内定しているだけはあり、かなりの身体能力を持っていた。


 ボクサーのような素早い動きと男性顔負けの右ストレートは、背すじの凍る思いをしたのを覚えている。何度も模擬戦を行っているが、格闘センスはかなりの物だと思う。


 そんな日々を過ごしながら、遂に新入社員として、探索部へ配属される事となった。

 

 そして本格的に訓練を行うため、国から鉱石ダンジョンへの立ち入りが許可された。


 鉱石ダンジョンには、すでに自衛隊が使っている訓練施設があり、そこでは筋トレや、トラック運動などが可能となっていた。


 そして遂に自分のスキルボードを見れる日が来た。

 

 磯山 幹久


 生命  90%

 チカラ 13

 体力  12

 素早さ 12

 器用  11

 賢さ  11

 

 自主トレの甲斐もあって、一応平均よりは上回っていた事に感動していると、梢に話し掛けられる


「磯山さん、ステータスどうでした?教え合いしましょ?」


 ちょっと上目遣いが御上手!と思いながらもお互いの能力の情報交換をおこなった。


 片桐 梢


 生命  90%

 チカラ 12

 体力  13

 素早さ 13

 器用  13

 賢さ   9 


 力と賢さ以外、数字的に負けてた…。こっちが見えないからってウソの申告してねえか?……いや、この子はそんな事はしないだろうな…。


「自分のステータス教えるのって、何だかかなり恥ずかしいですね…」

 そう言って彼女は照れていた。

 

 やだ可愛い!疑った自分を殴りたい…。


 別に男性だから、とか女性なのに、と言うつもりはない。


 ただ人より能力値が低い項目が有るということにショックを受けてしまう。これが数字化された弊害なのだろう。きっと。 


 それからの日々は、ただただトレーニングに打ち込んでいった。


 実戦訓練では、海外から元特殊部隊あがりの教官を招聘し、模擬ナイフや、木の棒などを使っての模擬戦や、遠距離攻撃用に複合弓を使っての的あて訓練を、繰り返し行っていった。


 外でも画期的な武器が開発され話題を呼んでいた。


 それは5cm程度の小型の魔石をはめ込んで使う予定の「小型レールガン」と呼ばれる電磁銃である。


 とは言っても、5cmの魔石は大森林の中層辺りの魔物じゃないと出さないので、数も確保出来ていない。


 それに小型と言ってもまだ片手で扱えるような物ではなく、鍛えられた自衛隊の精鋭でも、やっと両手で持てる大きさである。


 この武器にはかなり期待が集まっていた。あとは魔石から電力を余すことなく取り出すことさえ出来れば完成らしい。 


 これの開発はダンジョン内の魔物の中に、アサルトライフルでは致命傷を与えられず近接でのスキルや、魔法フル活用で何とか討伐出来る強さの敵が出るエリアまで調査隊が進んでいるからだ。


 人間の能力がライフルの威力を越えた瞬間でもあったわけだが。


 俺達は5人一組の班が組まれ、俺は班長の任を受けた。この班で本番のダンジョンの探索を進めて行くようだ。ちなみに梢も同じ班である。


 残りのメンバーは男性2、女性1で計5人となった。


 班での連携も考えながらの訓練は、とてもやりがいがある。

 

 5人対5人などの模擬戦も積極的に行うようになっていった。

 

 そして今現在、半年間のダンジョン内での厳しい訓練のおかげもあって、能力の方はメキメキ上がっていき、鍛え上げれる項目は何とか20に届きそうな所まできている。


 武器の扱いもかなり慣れ、特に弓が気に入り、人一倍練習をした。


 そんなこんなでダンジョン探索部門第1期、探索者、バックアッパー総勢60名一人も掛けることなく戦闘訓練を卒業し、遂に明日、上野ダンジョンへの侵入許可が降りた。


 ちなみに世間では、各門の上のダンジョン省の建物を勝手に「ギルド」と呼び始めている。


 翌日、その上野ギルドの大広間に、トウキンダンジョン探索者が集められ、法律などの最終確認を、ダンジョン省の人間から受ける。


 要約すると、

ギルドより外への火器武器の持ち出し禁止


獲得した魔石は、必ずギルドに一旦納める


魔石をギルドより外へ持ち出した場合、重罪になる


稀に手に入るスキルブックや魔法スクロール、消費型アイテムは拾った団体に使用権利がある


 等、そんな講習を受けた。


 我社トウキンの場合、小火器として9mm拳銃と弾は支給してくれる。これはダンジョン内のみ使用可能になっている。


 あとは近接用にチタン合金製のナイフと短剣、手斧などに加え、長さ1.5m程度の槍が用意されている。


 それと遠距離攻撃は、拳銃以外にもダンジョン探索者用に改良されたコンポジットボウやコンパウンドボウを持つことも出来る。


 鍛えられた探索者は、通常の人では引くのが不可能な、150〜200ポンドくらいの張力の弓を引くことが出来る。

 

 その為、改良版複合弓のほうが拡張性もあり、拳銃より威力と射程距離がある。

 それでも連射性能と命中精度では圧倒的に拳銃の方が早い。


 ただダンジョン内は森林地帯のため、活躍の場があるかどうかはまだわからない。


 防具は、全身紺色で統一された隊服とコンバットブーツ、頭はシールド付きのヘルメット、胴には防弾チョッキと下半身は防弾スパッツ、膝と肘用のプロテクター、小型無線機は各班に1つ支給される。


 盾は耐衝撃性や、防刃性に優れたライオットシールドが各大きさで用意されている。


 そして手に入れたアイテムは、各班ごとに話し合って適材適所、使っていく方針である。


 かなりテンションが上がり、コスプレよろしくスマホでの写真撮影会が始まってしまうのはご愛嬌である。うん。


 今日はダンジョンには入らずに、決起集会がある為、ギルドの隣のトウキン探索部の施設に移動する。


 そこではトウキン工業の上層部連中と、探索部門の人間達から激励を受け、皆で用意された食事を取り、明日からのダンジョン探索に備えて締めの挨拶を受けて、各自解散となった。 


 


 

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