第12話 調査隊

 深夜0時を回った頃、東京のとある一般家庭の居間で、その家の兄妹が会話していた。


「シズク〜直接生命エネルギー回収してるから、DPメッチャ入ってくるよ〜これでダンジョン制作めっちゃはかどるよ〜」


「良かったね兄ちゃん モンスターダンジョンも案外早くお披露目できそうだね」


 謎の会話であったが、仲が良さそうなことだけは一目瞭然であった。


         ★★★


 日本中…と言っても、ダンジョンスキーなネット民と、ソッチ系の小説や漫画が大好きな一部の人間、そしてかなり少数だがダンマス崇拝者(比較的女性が多いグループ 呼び名は魔王様)にとっては待ちに待った転送門が、遂に現れた。


 場所は新宿駅近くの公園の芝生広場のど真ん中。家族連れで賑わう大きな公園に、突如禍々しい門が現れた。


 こちらの門の大きさは、人が二人横並びで通れるくらいで、高さは3mくらい、穀物エリアの転送門に比べたらかなり小さい。


 いつものように周囲を封鎖し、自衛隊による調査が始められた。この調査に携わった隊員は全員、予めダンジョン内で準備していた能力の面でも精鋭中の精鋭で固められていた。


 第1回目の調査隊は、3日間ダンジョン内を調査し、100個近くの小指の先くらいの魔石を持ち帰ってきた。


 ドローンによる何枚もの写真や動画、隊員の証言などで中の様子が大部分わかってきた。


 どうやらダンジョン内は、広大な大森林フィールドで、昼夜があり、真ん中になレンガで出来た巨大なお城のような建築物があるようだ。


 てっきり迷宮の様な物を想像していた人間も多かったようで、賛否両論でネットやテレビでは賑わっていた。


 でも真ん中の建築物に期待が高まっていて、きっとこの中にダンマスが鎮座しているのではと言われ始めた。

 

 そして調査は森周辺から森の浅い層まで行われた。

 そこではバスケットボールくらいの通称スライムや、ゴブリン、コボルトと呼ばれる人型の犬、小型のオオカミ、イモムシなどを狩ったようだった。


 魔物は通常装備の9mm拳銃やアーミーナイフで充分対応出来るということで、これからの調査が進みそうだ。


 魔物を狩っていると、魔石の他に、ナント魔法「ヒール」のスクロール、「長剣術」「短剣術」「ナイフ術」「格闘術」のスキルブック数冊、後はアクティブスキルブックが数冊と、中に液体が入っているビンを数本倒した後に残っていたらしく、持ち帰ってきたのだが流石に公表されなかった。


 この話しはあとで、大学の先輩の伝手で手に入れた情報であり、トップシークレットでもあったが、匿名でネットに流した先輩が、ダンジョン省の黒塗りの車に乗せられて何処かへ連れて行かれ帰ってきていないというのは、……まあ本当に秘密である。

 

 ただ一度流れた情報は、一気に拡散され、ダンジョンに夢を見る人が大勢ネットに集まり始めた。俺もその一人だ。


 スライムの写真や大きさの証言を踏まえて、ダンマスが「あの日」乗っていた水っぽい生き物は1.5mくらいあったところから、スライムの亜種、キングスライムではないだろうかとか、キングならもっと大きいのでは?など噂され始めた。


 そして調査隊が持ち帰った魔石が研究機関で解析、究明されたことにより、新しい技術が生まれようとしていたが、俺はよくわかっていなかった。


 俺は調査毎にもたらされたスキルブックや魔法が凄く気になっていたが、調べようがなく、ネットで民と一緒に騒ぐだけだった。


 ちなみにビンに入っていた液体は、ポーションで間違いなさそうであった。


 俺も調査隊に加わりたくてしょうがなかったが、自衛隊の中でも特殊な訓練を受けた精鋭達しか、まだモンスターダンジョンには侵入していないので、今から俺が頑張って厳しい訓練をしても、5~10年は侵入出来ないだろうなと気を落とす。


 まずは大学を卒業してからダンジョン関係の職場に就職することを目指したほうが速そうではある。


 そうこうしている内にダンジョン暦4年、

俺は大学4年になり、就活真っ最中でもあった。


 その頃にはモンスターダンジョンの門の上に、ダンジョン省の建物が建てられ、一般人の立ち入りや、魔石の持ち出しがされないように厳重に管理され始めた。


 それとうちの大学に、数年前に「末期癌からの奇跡の復活」を果たし、ちょっと騒がれた男が同じ大学に入学したようだ。


 ちょっと騒がれたと言っても、本来はとんでもない偉業であろう事だが、当時はダンジョンが現れた「あの日」のすぐ後だった為、世間はあまり関心を示さなかっただけで、医学会では大騒ぎであったらしい。


 大学でちらっと見かけた事があったが、どう見ても中学生か、高校入りたてくらいの幼さで、色白で病弱っぽい身体付きと、顔はかなりのイケメンであった事も相まって「神に選ばれし者」、と密かにアダ名が付いていた。


 すれ違った時に、彼の影が一瞬揺らめいて見えたのは気のせいだろう。


 いつも一緒にいる可愛い女の子はどうやらリアル妹で、頑張って大検を取って一浪した兄と一緒に、同じ大学を受けた物凄く仲の良い兄妹だった。


 まあそんなこんなでダンジョン関連の就活は倍率が高く、落ちに落ちた。


 それでも他の仕事はしたくなかったので、

就職浪人になろうと決意した。


 その間もダンジョン調査は着々と進み、精鋭達は、人外の強さを手に入れていた。


 戦闘技術や、スキルも画一的だったが、何より魔法が規格外な威力らしい事が判明したからだ。


 魔法は1日で使用出来る回数が決まっているらしく、最初は2~3回しか使えない。


 ただ魔法を使うと「賢さ」が上がりやすく、「賢さ」が上がると魔法の使用回数と威力があがっていくらしい。


 それでも今の最前線で調査して居る精鋭達でも、やっとダンジョン内の森と建築物の中間までしかたどり着けていない。


 死人が出ていないのが、流石に調査という名目でダンジョンに入っているだけはある慎重さであろう。


 きっと自衛隊ではこれ以上無理には進まないんじゃないかとワイドショーやネットを中心に騒がれ始めた。


 それでも調査の度に持ち帰られる魔石の研究は進み、電力会社以外にも色々な分野の企業が魔石による家電や兵器などの開発に躍起になっていった。


 既存の電池やバッテリーよりパワーのある魔石の研究で、セットした魔石から直接エネルギーを取り出せれば、日用家電などの高出力化が可能であるため、多いに期待されていった。


 そんな時に、国から一般企業に調査を委託し、魔石の回収を任せる方針が国会で可決された。


 これには世論が大いに反対したが、後の祭りであった。


 国としては、公務員に命のかかった調査に頻繁に送り出し、何かあったときの責任逃れの措置だと陰口を叩かれていた。


 それでも俺にとっては渡りに船。真っ先に飛びつけるようにアンテナを張っておく。


 それまでは日雇いのバイトでもしながら身体を鍛え、どんなテストでも合格出来るように準備をしておくことにした。


 

 


 

 

 

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