第二章

第10話 あの日

 俺の名前は磯山幹久いそやまみきひさ、東京出身、24才 独身。

 今は「ダンジョン探索者」に成るための訓練を、ダンジョン内にある施設で受けているところだ。


 「ダンジョン探索者」とは何か、を語るには5年前の、世界に激震が走った「あの日」からを語らないわけにはいかない。

 

 「あの日」俺はまだ大学生だった。

 

 大学の講義が午前のみだったため、ちょっと遅めのランチを取るため自宅の近くの喫茶店に入った。


 店内には、ネットの某生放送局で、国会の予算案の本会議の審議中らしく、ああでもないこうでもないと討論している放送が流されていた。

 全く興味の無い人間にとってはただの雑音にしかならない。俺もその一人だった。


 食事を終え、コーヒーを飲みながら、スマホでwed小説を読みながら時間を潰していた。


 昔から転生モノの小説が大好きで、主人公に感情移入して至極の時間を過ごすのが好きだった。


 はっきりと覚えている。「あの日」の丁度15時になった時だった。あきらかにボイスチェンジャーを使った機械的な声がテレビから聞こえてきた。



「私はダンジョンマスターである」



 とっさにモニターを、食い入るように見つめる。


 「ダンジョンマスター」が何であるかは知っているつもりだった。それでも咄嗟には理解出来ず、唖然としていた。


 そこには異様な雰囲気の禍々しい形のデッカイ門の前に、頭から足の先まで、黒い全身金属鎧に見を包み、赤いマントを羽織り、水っぽい変な物に乗っかった見るからに魔王っぽい何かが、一瞬モニターに映り、すぐ放送がスタジオの映像に切り替わってしまった。

 

 スタジオは騒然としていて、「部外者が現れ、議場に立て籠もっている」と言っていた。


 部外者と言っても、俺の見た感じ、あきらかに魔王と、それに付き従うモンスターが、あそこには居た。


 かなりヤヴァい状況だろうとは容易に判断できる。


 そう考えていると、また画面が議場全体を映す。そこには変わらす「ダンジョンマスター」と名乗った何者かと、入口を塞ぐように黒い影の様な、人の形をした何かが2体、ダンマスヤロウの両隣と真後ろにそれぞれ各1体、計5体立っていた。


 威嚇の為か、ダンマスヤロウが乗っている水っぽい何かから、20〜30本くらいの棘が伸びて、天井や壁に穴を開けた。


 その途端、モニターから凄まじい悲鳴と、怒号が鳴り響いてきた。


 議場内の人間はパニックを起こしていた。


 これ絶対に無理矢理、中継繋がされてるんだろう。なんせ完全に制圧されてるもんな。


 これからダンマスによる、議員の大量殺戮が放送されてしまうのかと固唾を呑んで見守っていた。


 喫茶店の他の客も、完全にモニターに釘付けになっている。


「テロリストか?」とか「世界の終わり?」とか、恐怖で震えてる人も居た。

 

 俺も震えていたと思う。


 嬉しくて。

 

 遂に本気を出すときが来た!と。


 web小説には異世界とかに転生して、ダンジョンに潜るのは、定番中の定番である。


 そんな世界に憧れる人は俺だけではないはずだ。


 放送局のネット民は「ダンマス現わる」「伝説の1日」「こらから放送事故が流される」と、大賑わいである。

 登場してからほんの5分くらいしか立っていないのに、ネットニュースにも乗っていた。


 そんなダンマスが手を上げた途端、騒いでいた議員達は一斉に静かになった。


 あきらかに自分たちの意思とは裏腹に、声が出せなくなっているように見えた。


 そしてダンマスがその後に話した内容は衝撃的であった。

 

 これから国会議事堂のすぐ近くにダンジョンの入口が現れる。


 ダンジョンは異世界に存在しているので、門以外からは出入り出来ない。 


 そのダンジョンにはモンスターは出ず、穀物が大量にある。


 穀物はそのままでは外に持ち出せないので、頑張って加工しろ。


 そんなことを言っていた。


 俺的には、「あれ?モンスターは居ないって言った?ダンジョンといえばモンスターを倒し、金を稼ぐ定番の場所なんだが?」と考えていたそんな時だった。


 突然入口が破壊されて、防弾チョッキにヘルメットすがたの黒ずくめの男たちが、ピストルを構えて突入していく姿がみえた。


 ほんの一瞬であた。


 突入した、おそらく警備側の人間は、黒い影たちによって、議員達同様、立ったまま金縛りにでもあったかのように、身動き出来なくなっていて、声すら出せないように見えた。


 これは絶対にあの黒い影のスキルで動きを封じて居るんだろうと、興奮している自分が居た。


 その後ダンマスは、演壇のうえに、赤ん坊の頭程の大きさの、紫っぽい宝石のような物を置いてテレビカメラに向かって言った。


「これはプレゼントである。近いうちにダンジョン内に魔物が跋扈ばっこするエリアが開放される。そこでは魔物を倒せばこの魔石が手に入る。エリアが開放されるまで、この魔石の解析、究明をし、そこからどのように使用できるか考えろ。この大きさの魔石を落とす魔物はそう簡単には倒せないだろうが、ダンジョン内で鍛えた精鋭なら、小さな魔石を落とす魔物なら倒せるようになるだろう。」


 そう言ってモンスターと一緒に門の中に消えていった。


 それを聞いた俺は、また震えたね。


 それからすぐに金縛りのようなモノが解けたらしく、警備やら警察やらが入り乱れ、門を囲んで「出てこい」とか「投降しろ」とか騒いでいたのを、「あっちが投降するわけネーだろ」と呆れた目でモニターを見ていたのを覚えている。


 それからの日本は大パニックであった。


 とんでもない所にいきなりデカい門が現れ、警察や自衛隊が出動し、交通規制や、情報統制が徹底された。


 それでもこんな時代である。都内のど真ん中に現れた禍々しい巨大な門が、誰の目からも晒されないわけもなく、ネットは大騒ぎであった。


 連日連夜、ワイドショーでもダンジョンの話しで持ち切り。なぜかダンジョンに詳しい学者と名のるエセヤロウが、テレビでは見ない日がないほど、色々な番組に出まくっていた。

 

 その後、陸上自衛隊を中心に、門の中が人体にどう影響があるのか、かなりの期間調査され、安全と判断されてから、ダンジョン内にある小麦を発見し、それ以外の穀物も凄い量があることが判明した。


 最初に調査のためにダンジョン踏み入った隊員の証言で、「目の前に突然、透明なタブレットのようなモノが現れ、その画面には自分の名前と、おそらく数字化された自分の能力値が表示されていた」と言っていた。


 その証言を聞いたネット民がまた大騒ぎだったのをよく覚えている。なぜなら俺もその一人だったから。


 


 


 



 




 

 


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