第14話 詳しく聞かせてもらおうか

「おっ、帰ってきたかな?」

晴音も折りたたみ傘を常備しているので濡れていることは無いと思う。

ただ一つ心配なのは、なぜこんなに遅くなったのかということだ。

高校生だからそこまで厳しくするつもりは無いが、友達と遊んでたにしろなんにしろ、連絡くらいはよこせと言っておくべきだろう。

「今開ける」

そう告げて玄関のドアを開けて───

「……は?」

目の前に広がる光景にただ困惑した。

何故かって?

それは

晴音の横に裕也がいたからだ。

そして裕也は、何一つ理解が追いついてない俺に対してただ一言

「俺たち付き合うことになったから」

と告げ、「じゃあな」と言って帰って行った。



ひとまず晴音を上げ、風呂に入らせた。

あのままでは風邪をひいてしまうし、何より彼女もさっきまで張り詰めたような感じがしていた。

「……どういうことだ」

まずなんとなくわかることは、晴音は付き合いたくて付き合っている訳では無いということだ。

もともと、晴音は裕也のせいで学校に行くことすら嫌になっていた。

それに彼女自身があいつの事を怖いとも言っていた。

それなのにあいつと関わったり、喋ったりといったことをするのは考えにくい。

ましてや、付き合うというのはありえないだろう。

「何かあったのは間違いないんだろうけど…」

その何かが分からない。

あいつに脅されているとして、何を握られているのかが分からない。

あの二人が関わったのはショッピングモールで会った時が初めてのはず。

お互いの情報は知らないだろう。

うーん、うーんと悩んでいるとリビングのドアが開き、晴音が入ってきた。

「晴音、ちゃんと温まったか?」

「……うん」

「……話したくないことはいいけど、まず聞きたいことがある」

「……」

「晴音は付き合いたくて付き合っている訳では無い、それはあってるか?」

これだけは聞いておかないといけない。

仮にこれでノーと答えられたら、俺は絶対にこの交際を認めない。

普通に否定してぶっ壊すわ。

そして、うん。と帰ってきたら別れるためになんだってしよう。

これは兄としての使命であり、この子の兄であると胸を張れるようになるためだ。

そして何より彼女の幸せを守るため。

そしてこの問いに対して彼女は───

「───うぅ…」

涙を流して頷いた。

これまで溜め込んでいたものを全て吐き出すように、溢れかけていたコップの水が溢れるように、ぽろぽろと涙を流した。

そんな彼女を俺は、ただ慰めることしか出来なかった。



ある程度晴音が落ち着き、ひとまず晩御飯を作り終え、二人で食べたあと、俺の部屋に晴音を招いた。

「まず、なんで付き合うことになったんだ?」

これが一番重要なところだ。

これが分からないと何も出来ない。

「…えっと、詳しくは話したくないんだけど、昔の事を脅しの材料にされたの」

「…えっ?」

昔の事?

じゃあこのふたりは前から接点があったということか?

……いや、ないな。

仮にそうだとして、あの時にあれほど取り乱すだろうか?

「……おっけー。他には特にないか?」

「うん。これが理由」

だとしたら、そんなに他の人には知られたくないことなのだろうか。

まあ、俺が聞いていいものでもないだろう。

恐らく、昔のことと言うと……晴音の元の父親と関わりがあった頃の話だろう。

「…俺は特に聞かない。話したくないなら話さなくていい。だから、絶対に俺は晴音の味方だってことは覚えておいてくれ」

俺はこれから、この2人を引き裂くキューピットになる。



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