第12話 ごめんなさい。お兄ちゃん。
あれから何事もなく昼休みになった。
晴音は質問攻めにされるとわかっていても、蒼がいる2年7組に向かっていた。
「うぅぅ、こわいなぁ」
恐らく蒼は助けてくれるが、それにも限度がある。
それに行きたくない理由はもうひとつある。
「あの人。絶対に会いたくないな」
そう。
それは裕也のことだ。
蒼には気づかれているだろうか?
……恐らく気づかれている。
(やっぱり、まだ怖いし、休んだ方がよかったかなぁ)
もう大丈夫……なんて都合のいいことはなかった。
やはり辛いものは辛いし、嫌なものは嫌だ。
クラスにいた時はみんなが気遣ってくれてすごくありがたかった。
正直な話、その時だけはこの話も忘れることが出来ていた。
でも、1人になった瞬間に思い出してしまった。
(…大丈夫。今日は絶対に言い返す。お兄ちゃんと約束したもん。『辛い時は辛いって言う』って)
ただ、1週間前とは違う。
蒼のおかげで勇気が出た。
心の中でひたすらに言われたことを繰り返していた。
……その時だった。
「おい。この前は邪魔なのがいたから喋れなかったけど、今なら別にいいよな」
「……ごめんなさい。急いでるので」
言えた。
「なあ、お前が断れる立場じゃないの。それに」
これ以上何も聞いちゃダメだ。
早くこの場から離れ、
「俺はお前の父親を知ってる。何をしたか、何をされていたか。あいつが知ったらどんな感じになるかな」
…………ダメ…だ。
知ってるはずが…ないから。
昔の…私のことを。
大嫌いな、自分を産んだ男のことを。
だから…
「……何が…目的ですか」
……もしも本当に知られていて、それを蒼に話されたら。
私は…きっと壊れてしまう。
だから聞くしか無かった。
「簡単な話だ。お前俺と付き合え」
「……わかり、まし、た」
本当は嫌だ。
何をされるか分からない。
怖い。怖い。怖い。怖い。
ただ…蒼に、今の家族に嫌われるよりは、マシだった。
「よし。じゃあ、今日の放課後お前の家に連れてけ。もちろんあいつがいる時にな」
「…はい」
私は、やっぱりダメでした。
変われなかった。
辛い時に辛いをいえなかった。
誰にも届かない声で
「ごめんなさい。お兄ちゃん」
と言うことしか、今の私には出来なかった。
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