第9話 学校に行きたくない

裕也と晴音が出会ってしまった休みから2日後。

誰かの意思などと関係なしに、学校はまた始まる。

「……」

「なあ晴音、学校行きたくないのか?」

晴音は一言も口にせずただ静かに頷いた。

「やっぱり裕也が原因か」

正直なところ、こうなってしまうのでは無いかという予感はしていた。

一昨日、晴音は落ち着いた。と、大丈夫だ。と言った。

しかし、人の心は1度傷がつけば治るのに相当な時間が必要となる。

なんなら、その心の傷が治らなかったり、それが原因で死んでしまう人だっている。

晴音はやはり、人に心配をかけるのが嫌なのだろう。

だからこの時間になるまで学校に行きたくないと言わなかったし、普段どうりに振舞っていた。

……しかし、溜め込んで溜め込んで、吐き出せなかったから今になって爆発してしまい部屋に駆け込んでしまった。

「……」

「…俺も今日は休むか」

父さんが再婚するまでは、少なかったとはいえ休むことはあった。

父さんの稼ぎはとてもよかった。

しかし、今後がどうかは分からない。

だから俺は、バイトのために学校を休むことがあったのだ。

今更一日二日休んだところで別に変に思われたりはしないだろう。

「晴音。今日は学校お休みにしよう。もちろん、明日もまだ辛いなら明日も休んでいい。だからとりあえず部屋から出ておいで」

そう言っても出ようとするどころか、返事すらない。

「父さんは仕事に行ってるし、ひとまず澪さんに報告だな。その後学校に連絡して……出来ればプリントとかは陸に持ってきてもらうのがいいんだけど。…後で聞いてみるか」

今は晴音をそっとしておくのがいいと思い、晴音の部屋を後にした。



「蒼くんの晴音はどう?」

「学校に行きたくないって感じでした。多分この間のことが原因だと思います。なので、今日はとりあえず休ませてあげた方がいいと思います。あと俺も今日は休もうと思います」

「そう。ごめんなさいね。貴方にも負担をかけてしまって」

澪さんには、ショッピングモールで起きたことを既に説明してある。そして、その時に彼女が顔をしかめたのも覚えている。

そう。なにか因縁のような、そんなものを感じた。

「いえ。全然負担なんかじゃないですよ。それに、俺も晴音が心配ですし、勉強に関しては家でも出来ますし。今は晴音のことが最優先です」

実際、勉強なんてどうにでもなる。

勉強が出来ない人には「そんなわけねえだろ」と言われるかもしれないが、実際、勉強が出来ない人も努力すればできるようになる。

結局、その努力をどこでやるかの違いだ。

家でやっても変わらないだろう。

「……とりあえず、まずは晴音が部屋から出れるようにしないとですね」

「ええ。だから、蒼くんにお願いしたいのだけれど…」

「何をですか?」

「晴音のそばにいてあげてほしいの。昔も、晴音が泣いた時は私が付きっきりでいたのよ。だからお願いしたいの」

「そんなことで良ければいくらでも。それに、俺たちはみんな家族なんですから、そんなに遠慮しないで『お願い』って言うだけでいいんですよ」

実際に俺もそうだった。

再婚したとはいえ、つい最近まで赤の他人だったのだ。遠慮するのは当然だろう。

ただ、『家族』はここまで遠慮しない。

だったら

「今いるこの4人でちゃんと家族になるために、遠慮はなしで行きましょう。なので晴音のことはひとまず俺に任せてください」

「蒼くん……うん、わかった。ありがとう」

「はい。では晴音のところに行ってきますね」

「ええ。行ってらっしゃい。晴音のことよろしくね」

澪さんは、笑顔で送り出してくれた。

「よし。俺も晴音のためにできることをしますか」

澪さんに、学校への連絡をお願いし、陸に自分と晴音のプリントを持ってきて欲しいと連絡してから、晴音の部屋へ向かった。


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