第8話 女の子は1人にさせたらダメだって授業で習わなかった?
あれから数分後。
ショッピングモールについた。
「さて、毛糸を買いに行きたいところだけど、先に澪さんに頼まれたものから買っちゃおうか」
「何買うの?」
「えっと、メモには『ティッシュ、タオル、洗濯用洗剤』って書いてあるな…………なんだこれ?」
メモの裏になにか書いてあった。
「えっと……。あっ」
「何かあったの?」
「いや、なんでもない。」
「じゃあ行こう!」
「わかった」
そう言った晴音は少し早足で目的地であるホームセンターのような場所に向かっていった。
「……晴音は大切にされてるな」
さっきのメモの裏には
『晴音が欲しいと言ったもの』
と書いてあった。
もともと買うつもりではあったのだが、澪さんにお願いされたのだから絶対に買わなくてはいけない。
「この前、澪さんと晴音で買い物に行った時、何も買ってあげてなかったよな?……だから俺に頼んだのか」
おそらく、晴音は澪さんに対してわがままを言わないのだろう。
そして、たぶん再婚する前のことが関係している。
きっと晴音は昔から我慢していた。
それは今になっても続いている。
だから、晴音が気兼ねなくわがままを言える、晴音のわがままを聞いてくれる俺に頼んだのだろう。
「まったく、子供はわがまま言うのが仕事なのに」
……いや、俺が言えたことでもないのかもしれないが。
それでも今まで耐えてきた晴音には幸せになる権利がある。
「さーて、無事澪さんのお願いも果たしたわけだし、早く買い物を済ませますか」
これからは、澪さんと晴音が幸せになれるように頑張ることを改めて決意し、晴音のあとを追った。
◆
「……よし。これで必要なものは全部だな。会計済ませてくるから先に欲しい毛糸みに行ってていいぞ」
「わかった、先に行ってるね」
「おっけー」
◆
蒼と別れた晴音は毛糸を買うべく、ショッピングモール内手芸屋さんに向かっていた。
「手芸屋さんは2階かな?」
初めて来たショッピングモールなため、まだ内装がわかっておらず、地図を確認する。
「あ、2回であってる。早く行こう」
と行くべき手芸屋がわかったところで
「ねえ君。今1人?」
と知らない人に声をかけられた。
「え?」
「おお、めっちゃ可愛いじゃん!ねえ今暇?まあ遊びに来てんだから暇だよね?こっちも暇なんだ〜。一緒に遊ぼうよ」
「っ!」
いやだ。ただその一言すら出てこない。
それを言っても変わらないだろう。
ただそれでも否定しているということに意味がある。
「おっ!なんも言わないの?じゃあおっけーだね!
どこ行こうか?」
ああ、もう何もできない。
ただこの人の言うことを聞かなきゃいけない。
昔から、誰かに自分のことを言うのは無理だったから。
今ここで変わることも出来ないから…
「おい!何やってんだ!」
……?
「蒼。なんでいんの?それになんか用?お前には関係ないだろ」
「そいつは俺の妹だ裕也。二度と関わるな」
「この子、なんも言わなかったし、乗り気なんだよ」
「言わなかったんじゃない。言えなかったんだ」
「ああ、もううるせえなぁ、黙ってろよ」
「黙ってるわけねぇだろ。妹が泣いてんだぞ!」
「ああもう!めんどくせぇ」
そう言うと裕也は引き返して行った。
「晴音?ごめんな、怖かっただろ」
「……」
「とりあえず、向こうのベンチに座ろう?」
そう言うと、晴音は俺の背中をつまんできた。
「とりあえず…落ち着くまではあそこで休もう」
「…うん」
◆
なんとか晴音は落ち着いたがこれからどうするべきか。
「晴音、どうする?一旦帰るか?」
「ううん、毛糸買う」
「……そうか、じゃあ行こう」
「うん」
ここで止めるのがいいのかもしれないが、俺は晴音のわがままを聞いてあげたかった。
◆
「さて、いっぱいあるけど、どれが欲しいとかあるか?」
「うん、青色とピンク色と紫色が欲しい」
「ん。了解。今度は一緒にお会計行こうな」
「うん」
◆
帰り道、蒼は自分自身を責めていた。
(晴音に怖い思いをさせてしまった)
今日の経験がトラウマになってたりしなければいいと思い
「晴音。ここにはもうきたくないとかあるか?」
と聞いた。
しかし、晴音は以外にも
「全然そんなことないよ。確かに怖くて動けなかったけど、お兄ちゃんが助けてくれたから」
と言ってくれた。
「本当にごめんな」
「お兄ちゃんは悪くないよ!」
そうは言われても自分を責めてしまう。
……あの時と同じだ。
そのまま悪い方向に思考がいきそうになった時、頭に小さな温もりが乗っかった。
「よしよし」
晴音が撫でてくれていた。
「……ありがとう。じゃあお返しな」
そう言って俺も晴音の頭を撫でた。
「よし!早く帰るか」
「うん!」
1分くらいお互いに撫でて、ゆっくりと歩き出した。
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