第8話 女の子は1人にさせたらダメだって授業で習わなかった?

あれから数分後。

ショッピングモールについた。

「さて、毛糸を買いに行きたいところだけど、先に澪さんに頼まれたものから買っちゃおうか」

「何買うの?」

「えっと、メモには『ティッシュ、タオル、洗濯用洗剤』って書いてあるな…………なんだこれ?」

メモの裏になにか書いてあった。

「えっと……。あっ」

「何かあったの?」

「いや、なんでもない。」

「じゃあ行こう!」

「わかった」

そう言った晴音は少し早足で目的地であるホームセンターのような場所に向かっていった。

「……晴音は大切にされてるな」

さっきのメモの裏には

『晴音が欲しいと言ったもの』

と書いてあった。

もともと買うつもりではあったのだが、澪さんにお願いされたのだから絶対に買わなくてはいけない。

「この前、澪さんと晴音で買い物に行った時、何も買ってあげてなかったよな?……だから俺に頼んだのか」

おそらく、晴音は澪さんに対してわがままを言わないのだろう。

そして、たぶん再婚する前のことが関係している。

きっと晴音は昔から我慢していた。

それは今になっても続いている。

だから、晴音が気兼ねなくわがままを言える、晴音のわがままを聞いてくれる俺に頼んだのだろう。

「まったく、子供はわがまま言うのが仕事なのに」

……いや、俺が言えたことでもないのかもしれないが。

それでも今まで耐えてきた晴音には幸せになる権利がある。

「さーて、無事澪さんのお願いも果たしたわけだし、早く買い物を済ませますか」

これからは、澪さんと晴音が幸せになれるように頑張ることを改めて決意し、晴音のあとを追った。



「……よし。これで必要なものは全部だな。会計済ませてくるから先に欲しい毛糸みに行ってていいぞ」

「わかった、先に行ってるね」

「おっけー」



蒼と別れた晴音は毛糸を買うべく、ショッピングモール内手芸屋さんに向かっていた。

「手芸屋さんは2階かな?」

初めて来たショッピングモールなため、まだ内装がわかっておらず、地図を確認する。

「あ、2回であってる。早く行こう」

と行くべき手芸屋がわかったところで

「ねえ君。今1人?」

と知らない人に声をかけられた。

「え?」

「おお、めっちゃ可愛いじゃん!ねえ今暇?まあ遊びに来てんだから暇だよね?こっちも暇なんだ〜。一緒に遊ぼうよ」

「っ!」

いやだ。ただその一言すら出てこない。

それを言っても変わらないだろう。

ただそれでも否定しているということに意味がある。

「おっ!なんも言わないの?じゃあおっけーだね!

どこ行こうか?」

ああ、もう何もできない。

ただこの人の言うことを聞かなきゃいけない。

昔から、誰かに自分のことを言うのは無理だったから。

今ここで変わることも出来ないから…

「おい!何やってんだ!」

……?

「蒼。なんでいんの?それになんか用?お前には関係ないだろ」

「そいつは俺の妹だ裕也。二度と関わるな」

「この子、なんも言わなかったし、乗り気なんだよ」

「言わなかったんじゃない。言えなかったんだ」

「ああ、もううるせえなぁ、黙ってろよ」

「黙ってるわけねぇだろ。妹が泣いてんだぞ!」

「ああもう!めんどくせぇ」

そう言うと裕也は引き返して行った。

「晴音?ごめんな、怖かっただろ」

「……」

「とりあえず、向こうのベンチに座ろう?」

そう言うと、晴音は俺の背中をつまんできた。

「とりあえず…落ち着くまではあそこで休もう」

「…うん」



なんとか晴音は落ち着いたがこれからどうするべきか。

「晴音、どうする?一旦帰るか?」

「ううん、毛糸買う」

「……そうか、じゃあ行こう」

「うん」

ここで止めるのがいいのかもしれないが、俺は晴音のわがままを聞いてあげたかった。



「さて、いっぱいあるけど、どれが欲しいとかあるか?」

「うん、青色とピンク色と紫色が欲しい」

「ん。了解。今度は一緒にお会計行こうな」

「うん」



帰り道、蒼は自分自身を責めていた。

(晴音に怖い思いをさせてしまった)

今日の経験がトラウマになってたりしなければいいと思い

「晴音。ここにはもうきたくないとかあるか?」

と聞いた。

しかし、晴音は以外にも

「全然そんなことないよ。確かに怖くて動けなかったけど、お兄ちゃんが助けてくれたから」

と言ってくれた。

「本当にごめんな」

「お兄ちゃんは悪くないよ!」

そうは言われても自分を責めてしまう。

……あの時と同じだ。

そのまま悪い方向に思考がいきそうになった時、頭に小さな温もりが乗っかった。

「よしよし」

晴音が撫でてくれていた。

「……ありがとう。じゃあお返しな」

そう言って俺も晴音の頭を撫でた。

「よし!早く帰るか」

「うん!」

1分くらいお互いに撫でて、ゆっくりと歩き出した。

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