とある少年の昔話

「ソフトテニス地区大会決勝戦、勝者『政教せいきょう中学』」

「やったー!俺たち勝ったぞ!」

「蒼お前マジで強いな!お前とペアで良かったよ!」

中学一年生の時、初めての大会で僕らは優勝した。

元々ここ、政教中学校は部活にかなり力を入れていた。

もちろん勉強のレベルも低い訳では無い。

『文武両道』

これがうちの中学校のスローガンのようなものだった。

子供の頃からかなり運動神経が良かった僕は、ソフトテニスに興味を持ち、練習を積んで行った。

ソフトテニスは基本的に二人一組のダブルスで試合が行われる。

そのペア決めの際に僕はソフトテニスを習っていた子に「ペアを組もう」と誘われ、そのままペアになった。

僕たちは部活に入ってから1ヶ月程で先輩に勝てるようになった。

しかしそれを面白くないと思う人も当然いた。

この学校の運動部は今どき古い考えだが、実力至上主義のところがほとんどだった。

なので、ソフトテニス部では3ペアの合計勝利数で勝ちが決まる団体戦にも先輩を押しのけて僕らが出ていた。

政教中学のソフトテニス部には先輩が10人いた。

しかし、僕らが入ってきてからそのうちの4人が部活を抜けた。

理由は「どうせこいつらの方がうまいし俺らいる意味ないだろ」ということだった。

その時の僕はただ部活を楽しんでいただけだった。

だが先輩がやめたのが自分のせいだと言われた時に僕はこの部活にいていいのかと言う疑問を抱いた。


そんな中、クラスの友達から「サッカー部で練習試合があるんだけど、結構みんな休んじゃってさ。蒼、手伝ってくれない?体育の時上手かったからお願いしたいんだけど」と言われた。

そして僕は何も考えずに「いいよ」と答え、練習試合に出た。

結果は勝ち。6対0の圧勝だった。しかも、6点中4点が蒼の得点だった。

また別の日にはバスケ部、バレー部と、たくさんの部活の手伝いをしているうちに、「どんなスポーツも出来るやつ」と思われるようになった。

そして、他の部活の手伝いをしてソフトテニス部に顔を出さなくなった。

それから3ヶ月後、ソフトテニスの大会が始まった。その3ヶ月の間に練習をしたのは1回だけだった。

それにもかかわらず、僕らはまた優勝した。

そして部活の人数はまた減った。

そしてこの大会は全国大会まで繋がるものだと顧問の先生に伝えられた。

その結果、僕らは全国大会に優勝した。

「僕ら全国大会で勝ったんだぜ!」

勝ったことは嬉しかった。しかしその後に言われた言葉で僕は固まってしまった。

「そうだな。でもお前はどうせ才能だよりで努力してないじゃん。俺は確かに勝てて嬉しかった。でもお前みたいな他の部活で遊んでるやつと勝っても嬉しさより、うざいって気持ちが勝つ。他の奴らはちゃんと練習してんのにな。なんかみんなが可哀想になってきたよ」

……何も言い返せなかった。

僕がいるせいで先輩は部活をやめた。だから僕は部活に出なくなった。

大会で勝てたのに、部活にでてないせいでペアにはうざいと言われた。

じゃあ、僕はどうしたらいい?

行っても行かなくても悪いことが起きる。

……あぁ、わかった。

僕が部活を辞めればいいんだ。

二度と誰かの邪魔にならないように。

次の日は土曜日で部活があった。

僕は退部届を顧問の先生の机に置いてそのまま家に帰った。




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