第6話 せんせー。2年7組のみんなが止まりましたー

陸と話をする事約10分。

蒼は少しの焦りと不安を抱えていた。

(……晴音来るの遅くない?)

そう、メッセージを送ってから約10分も経つのに晴音はまだこの教室に来ていない。

「なあ蒼。晴音ちゃん遅くないか?」

どうやら陸も同じことを思っていたようだ。

「ああ、俺もいま思ってた」

(まさかもう裕也と会ったとか?それか、ただ来るのが嫌だって言うだけかな?いや、でも来るって連絡来たし……)

先程、晴音からは『わかった。行くね』というメッセージがきている。

「陸。まさかもうあの二人会ってたりしないよな…」

「……」

「陸?」

「いや、もしかしたら会ってるかもしれん。蒼、迎えに行ってやれ」

「うーん、まあ仕方ないか」

後輩たちの前で面倒ごとは起こしたくないのだが、晴音を守るためなら仕方ない。

それに、あいつの悪評は他学年にも広がっている。

少なくとも後輩たちは味方してくれるはずだ。

心の中で「晴音を守っててやってくれ」と後輩たちに頼みながら廊下に駆け出すと、「むぎゅ」という声と体に何かが当たった感覚が同時に来た。

「うわっ!びっくりしたー……って晴音?」

「あっ、お兄ちゃん!どうしたの急に呼んで」

(まあ、お兄ちゃんと一緒に帰る約束してるから、後で呼ぶつもりだったんだけど)

「晴音、なんか変な先輩に話しかけられたりしてないか?」

「?まだクラスのみんなとしか話してないけど…」

「ならいいんだ。ごめんな変な事聞いて」

「ううん。大丈夫だよ」

裕也と会っていないということがわかり、安心していると

「蒼。晴音ちゃん来たのか?」

と陸に言われて気付いた。

(義理の兄妹だとしても抱き合っている状態なのは良くない)

そう思い、手を離すと晴音は少し「しゅん」としてしまった。

しかし、晴音もこの状況を理解したのか、顔を真っ赤にして後ろに隠れてしまった。

(なんか、懐いた猫みたい)

出てきた言葉は飲み込み、とりあえず教室に入ろうと促した。

「さて、見ての通り晴音は知らない人の前だとかなりの人見知りなんだ。だから聞きたいことがあったら俺に聞いてくれ。まあ俺の後ろに隠れてるからほぼ本人に聞くようなもんだけどな。一応答えられそうなところは晴音に答えてもらうから。それ以外は、晴音に答え送って貰う」

あと1人ずつな。と釘をさし、質問をする時間(晴音は2回目)がスタートした。

……のだが、何故か質問が全然来ない。

「あのー、みんな?さっき聞こうとしてたこと聞いてもいいんだぞ?」

「いやー、ね?」

「質問しようと思ったんだけど…」

「こんな可愛い子に質問攻めは可哀想だし」

「なんなら見てるだけで満足」

……なんだこいつら。

「まあ質問がないなら俺ら帰るけど」

「じゃあいいか?」

「陸か。もちろんいいぞ」

「じゃあ、晴音ちゃん。蒼は家ではどんな感じだ?」

「えぇ、えっと、えーっとあの」

「晴音落ち着け、メッセージで送ってくれれば大丈夫だから」

「…うん」

そうして1分後

ピロリン♪

という音と共に文章が送られてきた。

『まだ一緒に住んで1週間も経っていないけど、料理もできて、家事もやって、私たちにすごく優しくしてくれてます。あとみんなでご飯が食べられるようになって嬉しそうっておとうさんがいってました』

「へぇ。やっぱりお前何でもできるな」

「こんくらいは慣れれば誰だってできるよ」

(もっとも、俺は親がどっちもいなかったからだけど)

「他に質問はないか?」

「じゃあ私」

白雪しらゆきさん、どうぞ」

(……あれ?俺白雪さんと実はあんまり喋ったことないな)

彼女は白雪 結菜ゆな。我らが学級委員長であり、陸の恋人である。

そもそも、このふたりは幼馴染でほかの人たちがびっくりするほど仲がいい。しかも二人ともモテるので、まさに美男美女カップルというやつだ。

(陸とは話すけど、白雪さんとは話す話題がないんだよな。今度、陸と三人で話してみるか)

「で、白雪さんの質問は?」

「晴音ちゃんは部活何にするの〜?」

「それは、……入らないです」

「えっ?そうなの?うちの部に来て欲しかったのになぁ〜、残念」

……部活入らないのか晴音。てかちゃんと答えられて偉い!

「白雪さんって何部なの?」

「私は演劇部だよ〜」

「あー、それはちょっと晴音には厳しいかな」

「そうね。無理強いはしないわ」

「助かる」


「じゃあ、あと1人にして貰えるかな?時間的にもそろそろ帰らないと」

結局あの後、ノリに乗ったみんなはすごい勢いで質問をした。

「じゃあ俺!」

霧島きりしまくん。いいよ」

「晴音ちゃんはこのクラスの男子で誰が一番かっこいいと思う?」

なんてことを聞いてるんだこいつは。

「あー、さすがに答えにくそうなのはちょt」

「お兄ちゃんです!!」

……遮られた。

「えっと、…お兄ちゃんが…一番…です」

晴音がそう答えると同時に、ほとんどの男子が崩れ落ちていく。

そして女子は「まあそうよね」と、うんうん頷きあっていた。

そして言われた本人はと言うと、

「っっ…」

顔を赤くして俯いていた。

そして質問をした霧島はと言うと

「……」

完全に固まってしまっていた。

おそらく絶望で。

「はい!おしまい!帰るぞ」

赤くなった顔を見られないようにするために、いち早く帰ることにする。

「晴音。帰ろ…う?」

そう言って振り返ると、下を向いてぷるぷる震えている晴音が目に入ってきた。

「えぇっと…晴音ー?帰るぞー」

いくら伝えても晴音は立とうとしない。

少し心配になり顔を覗き込むと、半泣きになって顔を真っ赤にさせていた。

それを見てしまったせいで、落ち着いてきていたのにまた顔が熱を帯び始めた。

「あぁー!みんなもう帰るぞー!」

そんな悲鳴のような助けを求めるような声が2年7組の教室に響くのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る