第67話
沙羅さん。
あんなに一緒に練習したのに、あんなに頑張ったのに。
ここまで二人で完成してきたのに。
「代役は?」
蓮さんは僕らを見回す。
「代役ったって今からでは探すにしても無理がありますよ。沙羅さんの台詞はかなりありますし、彼女くらいの役者となると役者の事務所から見つけてオーディションからはじめないとならなくなる」
演出家の高野あきらさんが眉間に皺を寄せ瞳を伏せた。
「そ、それじゃせめて海洋の中からでも彼女をセリフを覚えている女性の人いませんか?」
僕も辺りを見回すけど誰もいません。
花園先生もショックを隠せないようだった。心配そうな顔でこちらを見ている。
「私少しなら……」
その時、妹役の楠木さんが手を上げました。
「お前が拓実やったら、誰が美鈴やるんだよ?」
「そうよ、美鈴だって台詞多いのよ」
「じゃ、せめてそうだな。美鈴ができる人! 台詞覚えている人!」
もちろん誰もいるはずがない。演出家の高野先生も困っています。
「代役を立てる前に通しでやっておかないと」
「でも通しでやるにしても、誰かがやらないと」
「台本抱えたままやればいいんじゃない?」
「馬鹿、そんなんじゃ通し稽古にならないだろ?」
「くそっ、なんでこんなタイミングで」
「ああっ、この際、男でも女でもいいっ、京花の台詞覚えてる奴いないのか!」
蓮くんが半分切れ気味に叫んだ。彼の気持もわかる。これは彼にとって大事な仕事でもある。
彼の中では僕のセリフは頭に入ってるだろうけど、流石に彼女のセリフまでは考えてなかったようだ。
僕は周りを見渡すと、何故かみんな驚いた顔で僕を見ている。
え? 僕? 僕は拓実の相手役だけど。と思いながらみんなの目線が僕の頭の上を見ている。
僕を見ているというよりも、後ろの人を見ているというか。
僕がそっと振り返ると、隆二が手を上げていた。
「り、隆二っ」
蓮さんが素っ頓狂な声をあげ目を大きく見開いている。
「滝川くん、君」
「あーすいません、実は家で守と練習してたら台詞全部覚えちゃって」
僕らの驚愕をよそに、隆二はさわやかな笑顔を称えている。
スタジオに丁度天窓から明かりが差し込んでいて隆二を照らしていた。
それが彼の笑顔を余計人間界とは違った神々しさとして際立たせている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます