第41話

「俺を見ろ、俺の目を見て……。いいか、俺は普段のお前が好きなんだ。傍からどう見られようが、俺はありのままのお前が好きなのに、なんでこんな……周りから惑わされておかしくなってるんだ」


 隆二はまだ事態をよく把握できていないようで、少し思考を思い巡らせてから言い出した。


「とにかくいいか。俺はお前の手作りの料理が好きだ。誰が言ったか知らないが、田舎料理だ? 結構だよ、俺が長年求めていた物なんだ。ファンクラブの子にも誰にも言ってない。俺はお前の素朴な料理が一番好きなんだ。それがあるからこうして幸せに生きていける」


 僕は黙って彼の顔を見つめた。真剣な彼の顔を。


「俺が真っ当になって、こうして健康で心から幸せを感じて生きていけるのはお前がいるからなんだ。外では気取っていても家の中では自然でいたいんだ。だからお前を選んだ。お前の素朴な性格が大好きなんだ、もちろん顔だって、スタイルだって、可愛くて綺麗で大好きだ」


「隆二……」


「お前をアクセサリーのような洒落た男にすることなら幾らでもできる。お前が心から望むならそうしてやってもいい、でもそうじゃないなら、ありのままでいて欲しい……。お前は俺の飾り人形なんかじゃない、見栄のために一緒になったんじゃない。俺自身の為に幸せになりたくてお前も幸せにしたくて一緒になったんだ」


 僕は思わず目から涙が溢れてきた。隆二はそれをそっと指先で拭うとシャツのボタンを一つ、一つ、ゆっくりと外していく。


「こんな服いらない。変に洒落た料理もいらない。俺は着飾ったお前じゃなくて裸のままのお前が好きなんだ。お前の素直な心が大好きだ。ここは俺の家でお前は俺のたった一人の家族なんだ。わかるか?」


「うん……」


 シャツがはだけて僕の肩が露になると隆二はそこにそっと唇を押し当て頬を寄せた。


「お前の肌の匂いが好きなのに、変な匂いの香水つけて……。お前の汗の匂いの方がずっと好きなのに、ずっと芳しいのに……」


 首筋を隆二の唇がそっと這うと軽く吸い上げる。

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