第11話 讃美歌
気になって気になって仕方がなかった俺は新婦の控室へ向かった。そこに入った俺は絶句する。
鏡台の前に座る彼女はオフホワイトでシンプルなスレンダーラインのウエディングドレスを着ていた。その美しさに俺は言葉もでなかった。
「なあに? 誉め言葉のひとつもないわけ?」
彼女は笑う。
「あ、ああ、きれいだ」
「ありがと」
少し赤くなった彼女は立ち上がると俺の頬にいきなりキスをしてきた。
「おっ! おまっ!」
「ふーん、赤くなっちゃってー、かわいい」
「からかうなよっ」
「からかってないよ。ねえ緊張してる?」
「少しな」
「ふふふっ、経験者のするとおりついてくれば怖くないからねえ」
「こいつ」
俺が彼女のおでこを小突く。
「へへっ」
案内人が控室に入ってくる。
「これより始めさせていただきますので、それぞれご指定の位置にお付き下さいませ」
俺たちは控室を出ようとする。
「じゃな」
「うんっ、またねっ」
子供みたいにいそいそと、小走りに持ち場につこうとしている彼女の後ろ姿を俺はずっと眺めていた。
今日俺は彼女と結婚式を挙げる。
彼女とはもちろんサナエのことだ。参列者は双方の親しい親族と友人だけ。
チャペルで執り行われた式は滞りなく済んだ。
最後に俺たちがチャペルから退場すると、案内係に庭へと連れて行かれる。ここで記念撮影をするためだ。
親族も庭に揃い、いよいよ撮影の段になると、好天が一転にわかにかき曇り、突然の雨が降りはじめる。冷たい強風まで吹く様子に、俺ははまるで誰かの呪いのようだと感じた。サナエも不安そうな表情を浮かべている。
あちこちで悲鳴が上がり。案内係が慌てて俺たちを含め皆を建物の軒先に避難させた。
すると牧師がのんびりとした声で、
「それでは先ほどの讃美歌430番『
と言い出した。俺たちは慌てて讃美歌の歌詞カードを取り出し、俺たちでもついていけるようにゆっくり歌う牧師に続く。
“
わが主もともに いたまいて
父なるかみの みむねになれる
いわいのむしろ 祝しませ
今しみまえに 立ちならび
むすぶちぎりは かわらじな
八千代も共に 助けいそしみ
まごころつくし 主につかえん
愛のいしずえ かたく据え
平和のはしら なおく立て
かみのみめぐみ 常に覆えば
さいわい家に たえざらなん.
きよき
なぐさめとわに 尽きせじな
重荷もさちも 共に分かちて
よろこび進め 主のみちに
アーメン“
▼次回
2022年6月29日 21:00更新
「最終話 決別と未来」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます