第9話 本当の気持ち

 サナエとタカキのマンションを出た俺は一人で車に乗り、近くの河原に車を走らせる。サナエが俺とタカキにフルートを聴かせてくれた場所だ。大きな川の幅広い土手の上、車を停めると俺は車を降りて土手を駆け下りベンチに腰掛ける。内ポケットからタカキの遺書を取り出し封筒から便せんを出すと街明かりを頼りに読み返す。おぞましさに胸が冷たくなる。お前は、お前はそんなに俺たちを。

 俺はライターに点火するとタカキの遺書に火をつけた。


 本当のことを言うと、俺が最初に詰まった「実は――」のあとに綴られていた言葉は俺が読んだものとは全く違っていた。それは以下のようなものだった。


「――実はすべてが小気味いいほど僕の計算通りだった。マサヤがサナエのことをずっと好きだったってことを僕は知っていたんだ」


 ここを見た瞬間、俺はタカキの強い悪意を直感的に感じ取り、アドリブで全く異なる言葉を喋り続けていったのだ。このあとの本当の文面はこうなる。


「だけど、義理堅いマサヤが僕との友情を取ることもわかっていた。だからマサヤがサナエに告白する機先を制して僕の方からマサヤに相談をした。そしてマサヤからの言質げんちを得て、サナエには『マサヤも応援してくれている』と言ってマサヤにはサナエに対しその気がないことをちらつかせて告白を受け入れてもらった。君たちはまんまと僕の思惑通りに動いてくれた。僕は笑いが止まらなかった」


 遺書はめらめらと燃えオレンジ色の炎が俺を照らす。


「僕はマサヤを憎んでいた。信じてくれないかも知れないが本当だ。何もできない僕と違って何でもできるマサヤが僕には本当に憎らしかった。妬ましかった。一人悶々とマサヤへの憎しみにかられて、朝まで寝られない夜もあったほどだった。だから僕はマサヤに勝ちたいと思っていた。その頃にはもうマサヤとサナエはお互いのことを気にしていることが丸わかりだった。だから僕はこう考えた。マサヤからサナエを奪ってやろう、と」


 俺は遺書はあっという間に燃え尽きた。封筒にも点火する。やはりオレンジの炎を上げて燃え上がる封筒。


 ▼次回

 2022年6月27日 21:00更新

 「第10話 タカキ」

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