僕の初恋の人~彼女の記憶にない初恋~

 はぁっ、はぁっ・・・・

 良かった、追いついたっ!

 キミが教室から出ていくのが見えたから、急いで追いかけてきちゃった。

 ・・・・あれ?

 もしかして、迷惑だった?

 ほんと?ほんとに、迷惑じゃない?

 ・・・・よかったぁ。

 え?

 だって、なんかすごくびっくりした顔、してたから。そんなに驚かせたつもり、なかったんだけど。

 ん?

 私の顔に、何か付いてる?

 やだもう、そんなにジーッと見ないでよ、恥ずかしいから。

 ねえ、本当にどうしたの?

 ・・・・私が走ってきたのが、そんなに驚くこと?

 ふふふ、私ね、体を動かすの好きなんだ。

 え?知ってる?

 なんで?

 ちょっと、なんで黙るかな?

 ねぇ・・・・ねぇってばっ!

 もうっ!

 変なの・・・・まぁ、いいけど。

 じゃ、改めて。

 一緒に帰ろ?



 今日ね、幼なじみの友達と、初恋の人の話で盛り上がってたんだ。

 そうそう、違うクラスにいる、私の幼馴染みと。

 彼女の初恋の人ね、小学校の時の同級生なんだって。

 私も知ってる人だったから、すごく盛り上がっちゃって。

 残念ながら、彼女の初恋は実らなかったみたいなんだけど。

 でも、さ。

 いいよね、初恋って。

 実っても実らなくても、甘酸っぱい、いい思い出、じゃない?

 そうだ!

 ねぇ、キミの初恋の人って、どんな人?

 ・・・・えっ?私の?

 えっと・・・・実は・・・・

 覚えてないんだよね…

 ちっ、違うよっ?!

 初恋を忘れた訳じゃないってば!

 そうじゃなくて、ね。

 初恋の人を覚えてないんじゃなくて・・・・うん、初恋の人も、覚えてないんだけど。

 覚えてない、っていうか、思い出せない、っていうか。


 私ね。

 小学校の途中からおばあちゃんの所で過ごしてた、って言ったでしょ?

 その直前の記憶が、すごく曖昧なの。

 お父さんはずっとこっちで仕事してたし、お母さんもお父さんとこっちで暮らしていて、時々私の様子を見に来てくれていたから、お父さんの仕事の関係で転校した、って訳でもないのに、なんで転校したのかもわからないし。

 お父さんに聞いてもお母さんに聞いてもおばあちゃんに聞いても、誰も教えてくれないんだ。

 きっと、何かあったんだと思うんだけどね。

 でも、本当に覚えていないの。

 すごく大事なことを忘れちゃってる気がするんだけど、どうしても、思い出せないんだ。

 でもね。

 幼なじみが言うにはね、小学校の時の私には、好きな人がいたみたいなんだって。

 誰だかは言ってなかったらしくて、彼女にも分からないみたいなんだけど。

 きっとその人が、私の初恋の人なんだって思うんだよね。

 でも私、全然思い出せなくて。

 私の初恋の人って、どんな人だったんだろうな・・・・


 やだ、なんでキミがそんな泣きそうな顔してるの?!

 大丈夫だよ。

 きっといつか思い出せるって、思ってるし。

 だから、そんな顔しないでよ。

 って、なんで私がキミを励ましてるのかなぁ?

 ふふふっ。

 思い出したら、キミにも話すから。

 うん、約束する。

 だから、ね?

 もう、そんな顔しないで。

 私が早く思い出せるようにって、お祈りしてくれると、嬉しいな。


 で?

 キミの初恋の人って、どんな人なの?

 ・・・・へぇ、意外。

 なんとなく、キミはおとなしい人が好きなのかなって、思ってた。

 だってほら、キミって物静かな感じだから。

 ・・・・え?

 私がしゃべり過ぎなだけ?

 そうかなぁ?

 って、もしかして私、喋り過ぎてうざかったりする?!

 ・・・・ほんと?ほんとに、そんなことないって、思ってくれてる?

 そっか。

 優しいね、キミは。

 でも、そんな活発な子が、キミの初恋の人だったんだ?

 もしかして、その子に随分振り回されたんじゃないの?

 ・・・・あ~、実は振り回される方が好きだったりして?

 あれ?図星っ?!

 やだ~、耳まで真っ赤になってるよっ!

 ふふふっ、可愛い。

 あっ!

 ごめんねっ、『可愛い』って、男の子にとってはあんまり褒め言葉じゃないよね?

 でも・・・・あははっ、やっぱり、可愛いんだもん!

 違う違う、馬鹿にしてる訳じゃないんだよ?

 女の子が言う『可愛い』って言葉は、結構な褒め言葉だったりするからね?

 だけど。

 照れてムキになっちゃうキミって、ほんと・・・・可愛くて!

 ついつい、揶揄いたくなっちゃうの、分かるなぁ。

 初恋の彼女にも、こんな風に揶揄われたりしたんじゃない?

 え?

 なんで分かるかって?

 そんなの・・・・想像できちゃうよ、すぐに。

 なんとなく、だけど。



 ・・・・あ~あ、もう着いちゃった。

 キミはそっち、だもんね。

 なんでかな、キミと一緒だとすぐ時間が経っちゃうなぁ。

 ね。

 また一緒に、帰ろうね?

 じゃ、またねっ!

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