鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす

思い返す。

想い出す。

あのときの私の気持ち。


慕った人は、もういない。

慕った人とは、二度と会えない。


そう、落ち込んでいた。


慕った人と、冗談を交わすことは叶わない。

慕った人を、叱り飛ばすことは叶わない。

慕った人に、微笑むことはもうできない。

慕った人と、笑い合うことはもうできない。


ずっと、諦めていた。


空っぽになる。

何が?

自分の心が。

何故?

寂しいから。


何度も繰り返した自問自答。

あの時は何も解決はしなかった。


強く、純粋なほど真っ直ぐに、正直に生きる姿。

出会った時は、互いに敵対する者同士。

対峙を繰り返し、時を経てその魅力に引き込まれた。


その横を、共に歩きたいと願うようになった。

あの時は、まだその資格がないと後を追うだけ。


いつ、帰ってくるのか。

いま、何をしているのか。


ずっと、待ちわびていた。

いつも、考えていた。


最初は冗談だと思い、気にも止めていなかった。

時間が過ぎていく。

現実を受け入れなければならないこと。

頭では理解していた。


許せない。

誰を?

あの人を。

何故?

私を見捨てた。


本当に見捨てられたのか。


情けない。

何が?

止められなかったことが。

どうしたかった?

止めたかった。


そう。止められないことは、分かりきっていた。


言えなかった。

何を?

連れて行ってほしいの一言を。

何故?

拒絶されるのが怖いから。


取るに足らぬ自尊心。

それよりも、孤独感の方が辛いこと。

あの時、予想できなかった自分が情けない。


慕った人は、消えた。

慕った人への想いは、消えない。


また会えるのであれば、何もいらない。

どうすれば再会できるのか、道を探し続けた。


再会する時。

その時、どんな顔をしてくれるだろうか。

喜んでくれるのか。


心配ばかりだったけど、杞憂だった。

いつもと変わらない表情。

自信に溢れ、前を向く視線。

時折見せる、抜けたところ。


もう、逃げない。

もう、離さない。

もう、自分に嘘はつかない。


何年、何十年、いや、何千年経ったとしても。

私は何も変わらない。


貴方が真っ直ぐであるならば

私も真っ直ぐに自分に向き合う。

私は私に、もう……嘘はつかない。


私を連れて行って。

私は貴方に伝えることができた。


でもね。

私の想いの全ては話さない。


鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす。

私は誰よりも貴方を想っているから。






 

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