好いた同士は泣いても連れる

「なあ、ノア?」

「何? ゼオン!」


「何で、ここにいるんだ?」

「何でって、何で?? 私は貴方の妻よ?」


「……話にならんな……」

「何か不満??」


「い、いや……。俺は食費を稼ぎに、冒険者ギルドに来ているんだが。ノアには、無縁だろ!」

「そうね! ゼオンと違って、ちゃんと貯金しているからね! はっ……! こ、このお金は駄目よ! 産まれてくる赤ちゃんの為のお金なの!!」


「お、おい! ノア! 止めろ! 周りが変な目で見てくるじゃないか!」

「どう! 迫真の演技力!」


「わかったから止めろ!」

「はぁ〜い。で、どうしたの? また金欠? さては、何かを壊したのね……」


「みなまで言うな……」

王立魔術研究府 アカデミア獅子のたてがみも、良くこんな粗暴な人を退学させないわね……。世の中、本当に不思議ね。こんなのが居たら、秩序なんて滅茶苦茶よ! 規則何て舐められたら終わりよ! 世界の敵! 女の敵! 私の配下にいたら即刻解雇! 国王だったらクーデターで引きずり落とすわよっ!」


「ノア……? ちょっとは言葉を選ぼうな。お天道様が霞むぞ」

「あ、でも安心して! そんなゼオンだけど、私は味方よ! 世界を敵に回しても味方!」


「喜んでいいのだろうか……」

「喜びなさい! 絶世の美女と呼ばれた私が味方よ! 幸せ者っ! あ! 裏切ったら、分かっているわよねゼオン! が貴方の敵よ!」


「行くも地獄……退くも地獄……。安寧は何処だ」

「何か言った?」


「いや、何も! とりあえず食費を稼がないと!」

「ゼオン? これなんて調度良さそうよ!」


「『食材採取!』これか?」

「報酬のところを良く読んで!」


「『メインは新商品の試食になります。味の評価を是非!』……な、何だと! 報酬の上乗せじゃないか! しかも、王都のパティシエからの依頼!!」

「ね! 新作のスイーツ食べられたら、幸せよね!」


「決まりだな!」

「ちゃちゃっと片付けるわよ!」



◇◇◇◇◇◇◇



「香草が必要なのか」

「そうみたいね。何に使うのかしら。ま、こんな危ない場所に生えてるなら、きっと有り難いわよね! 美味しいはずよ!」


「だろうな。それは置いといて、これだけ採れたんだ。大丈夫だろ。そろそろ、戻るとするか」

「そうね! 夕食までには戻れそうじゃないかしら」


◇◇◇◇◇◇◇


「もうそろそろ王都だな!」

「スイーツ! スイーツ! ……あれ、何かしら?」


「貴族の連中じゃないか?」

「あそこに座らされているのは、子供……?」


「身寄りのない子供たちだろ。大方、道を邪魔してとか些細ないちゃもんをつけて虐めているだけだ」

「ああいう連中、まだいるのね」


「おい! お前ら、くだらぬ弱い者いじめはやめろ。今なら、許してやる」

「ゼオン! あんまり暴れちゃ駄目よ」


「いいか? 貴族か何だか知らんが、偉いのはお前じゃない。国を支える全ての者だ。勘違いするな! それに人の上に立つ者は、寛容で弱者を助く! そうでなければ漢じゃない!」

「私はエルフ族だけど? モルベガ王国の初代女王よ! ……え? 何倍生きてるんだよ? 何歳? エルフ族は、見た目と年齢が一致しないから困る?」


「おい! お前ら! 何を言っているんだ! 謝れ! 早くしろっ! 死んでもしらんぞ!!」

水晶石の槍クリスタルランス! まとわせ、冥府の劫火ヘルフレイム! 吹きとばせ、暴風竜の瞬息ウラガーノブレス!」


「ヌオっっ!! お前が一番暴れているぞっ!!」

ご機嫌麗しゅう!消し炭になぁれ



◇◇◇◇◇◇◇


「危うく食材まで消し炭になるところだったろ!」

「え? 何か問題でもある? ちょっとした息抜きよ?」


「まあ、依頼はこなしたから問題はないが……」

「でしょ! それより、ここね! 王都で最近人気のお店。新進気鋭のパティシエらしいわよ! 『ノジュ・ナーザン』ちょっと楽しみね!」


「この香草は、ミントというのか?」

「へぇ~っ! チョコレートと生クリームを混ぜてミントを足すのね! ん? うっ……、何かしらこの青い塊……」


「チョコミントケーキというのか……」

「何かしら、この味……。私、お腹が空いてないみたい……」


「俺もだ……」

「……」


「今日は帰るか……」

「そうね……」


「厳しい依頼だったな……」

「ええ。二度と受けたくない厳しさね……。好いた同士は泣いても連れるって言うけど、こればかりはゴメンだわ」

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