約束
約束
作者 此糸桜樺
https://kakuyomu.jp/works/16816927861825215660
死より孤独を恐れる不治の病の佐々木舞佳は「私より先に死なないで。私を一人にしないで」と余命少ない拓斗にお願いし、彼は約束を守って人工呼吸の電源を止める話。
全体的に文章がうまい。
とくに描写の表現が良い。
ラストは主人公が死んでしまうし、全体的に死を漂わせた暗さがあるのだけれども、あまり暗さを感じさせない。
色味のある描写のせいかもしれない。
なので、読ませ方のうまい書き方をしていると思う。
主人公は完治不可能と言われている病気にかかっている佐々木舞佳、一人称私で書かれた文体。自分語りで実況中継で綴られている。人物や影、色の描写がよく描けている。最後の一文は三人称で書かれている。
女性神話の中心軌道、あるいはそれぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感する書き方をしている。
主人公の佐々木舞佳は拓斗が好きであり、「私より先に死なないで。私を一人にしないで」と告げるのは死より孤独に恐怖しながら完治不可能といわれている病気に罹っているため。
やがて拓斗は「余命三カ月」だと告げる。
自分のほうが早く死ぬと思っていたのに、彼が先に死んでしまう。おまけに自分のための新薬がもうすぐ開発されると看護師から聞く。
三カ月が経とうとするころ、彼が死んだ世界で生きたくないと思っていると延命治療していない彼が、約束を果たしに現れる。
人工呼吸機器の電源コードを引き抜き、主人公は意識を手放し、拓斗もあとに続くのだった。
冒頭の蝉のうるさい日について「本当にうるさくてうるさくて、君の声が聞こえないほどだった。耳の近くで鳴いているような、直接頭に響くような、そんな鳴き声だった」でモヤッとした。
人の声が聞こえないほど蝉の声がうるさいというのは、もはや騒音である。
耳元に蝉がいて激しく啼いているのなら、「耳の近くで鳴いているような」とあいまいな表現はしない。
冒頭とラストがつながるように書かれているのだ。
なので、冒頭の蝉の声がうるさいのは、蝉ではない。
「鳴き声……泣き声……?」とあるように、舞佳の耳元で拓斗が泣いているのだ。それを確かめることができぬほど主人公の彼女は、もはや意識がなく逝ってしまうのだろう。
色の表現にこだわりを感じる。
緑の名称を並べて説明し、「目にも鮮やかな色とりどりの色彩」と感想めいた表現をもちいて「林立している」と窓の外あら見える緑は、林の色味だと描写しているのだ。
「打ち上げ花火のような笑顔とコロコロとした鈴のような笑い声」とある。突然、ばーんと笑顔を浮かべたかとおもえば、小さく可愛らしい鈴の音みたいな笑い声をするのが、少年らしい快活な笑顔らしい。
少年というか、拓斗の笑顔だろう。
元気だった頃の彼には、快活な元気さと大人しい一面を合わせ持っていたのかもしれない。
二人は病気で、ともに余命が短い。
ふたりとも同じ病気なのか、違うのか。
「私は、完治不可能と言われている病気にかかっている。新薬の開発は進んでいるらしいが、実用化はもう少し先らしい」と自分の病気のことは書かれているのに、彼の病気には一切触れられていない。
ひょっとすると、詳しく知らないのかもしれない。
でも「私の病状は、彼の死を追い越す勢いで悪化していた」とあるので、彼の病気について知っていると思われる。
発作中、自分の状況を実況中継できるほど意識がある。
朦朧とした意識の中では、そんな考えすら及ばない。
とはいえ、一人称の小説なのだから、自分で語らなくては読者に伝わらない。「今日もまた死ねなかったな」と呼吸が楽になりながら、発作のときのことを思い出しての表現だったのかもしれない。
拓斗は、余命三カ月と告げられたとある。
余命はあくまで目安なので、三カ月経てば確実に命がなくなるわけではない。五年生生存もあり得るし、三カ月前になくなることだってある。
延命治療をせずに、彼女の病室に歩いて来れるほど、彼はまだ体力があるのだ。
「私の口元には酸素発生器がつけられている」とある。
口元には、酸素吸入マスクをつけられていると思われる。
人工呼吸器をつかっているのではと推測する。
一度装着したら、容易には外せない。
彼が約束を守ってくれて、電源コードを抜いてしまった。
「五台余りの機械音が一斉に消えた」とあるので、酸素発生器だけではなく、延命治療をしている他の機器もつけているのかしらん。
外すにはプロセスがいる。
医療チームの総意であること。
医師から情報提供と説明がきちんとなされること。
医療チームと本人、家族が何度もくり返し話し合い、合意を形成することで外すことができる。
でも、彼は勝手に外してしまったので、執行猶予はつくかもしれないが殺人に当たると思われる。
良い子は真似しないように。
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