昼下がりの出来事

昼下がりの出来事

作者 ちゃこと

https://kakuyomu.jp/works/16817139556830263801


 空腹だった猫が蟻の揉め事をみながら自身と同じく賢く他人を使う者がいることを知って愉快に思い、漁師から魚をもらう話。


 文章冒頭のひとマスあけやダッシュの書き方云々は目をつむる。

 どんでん返しな作品。

 主人公が見ていたものは人ではなく蟻であり、主人公もまた人ではなく猫だった。


 主人公は猫、一人称私で書かれた文体。自分語りで実況中継をして綴られている。会話文はない。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公は野良猫で、空腹だった。

 蟻の行列をみていると、体の小さな蟻Aが大きな荷物を背負って巣に帰る列に並んでいる。するとAの三分の一しか荷物を持っていない体の大きな蟻B列を無視してAにぶつかり、揉める。そこに蟻Cが現れ、事情を察し、Cは自分の荷物をBの荷物に載せてAと同じ荷物量にする。ひとまず納得がいったのか、AもBも列に並び、Cは草むらで昼寝をする。

 主人公は、自身と同じく賢く他人を使う姿に愉快を感じ、漁師が営む魚屋の前に座り、髭男に「にゃあ」と媚びを売るのだった。


 着眼点と発想が面白い。

 入れ子状態になっている。

 目の前で繰り広げられている揉め事を解決した蟻Cの行動に自分を見るような思いに感じたから、愉快に思い、主人公が一体誰だったのかがラスト明かされる。

 

 蟻の揉め事は、果たして解決と言えるのだろうか。

 蟻Aが怒ったのは、三つある。

 一、Bが列にきちんと並ばず追い越そうとしたこと。

 二、あらっぽくAにぶつかり謝らなかったこと。

 三、体が大きい割に、Aの荷物はBの荷物の三倍なこと。

 Cがとった解決方法は、自身の荷物をBに乗せて、Aの荷物量と同じにしたこと。

 これでは三番目しか解決していない。

 でも揉め事がおわると、Bは両肩に荷物を担いで、巣へと戻る列に加わっているので、一番目も解決したことになる。

 蟻の言葉はわからないので、ひょっとしたら謝罪があったのかもしれない。

 とにもかくにも揉め事は、Cの機転で解決したのだ。

 大岡裁きの「三方損」がふと浮かぶ。

 Aの損は、列の後ろに並び直すことになったことだろう。

 Bは荷物が増えたこと。

 Cは荷物がなくなったこと。

 Cは損をしているが、同時に楽をしている。

 蟻や蜂には、真面目に仕事するのは二割で残り八割はサボっているという。Cの蟻は八割の部類に入るのかもしれない。その八割も食事にはありつけているのだから、楽な生き方である。


 主人公の猫もまた、自身で獲物を捕まえにいくのではなく、捕まえてきた漁師からおこぼれをいただくという、賢く他人を使う楽な生き方をしている。

 シナントロープという言葉がある。

 人間の社会環境の中で賢く共生しながら生きている野生動植物の総称であり、ドバトやかもめ、スズメやツバメ、ヤモリやネズミなどなど。家や田畑に生息する爬虫類もそうだし、野良猫もそうといえる。


 車のディーラーをしている友人がいる、という人が語っていた話を思い出す。高級車が売れるとこっそり上乗せして、十万もらえると言っていた。

 上からの発注でも孫請けやひ孫請けに仕事をまわす過程で中抜けして、末端で作業する人には 微々たる賃金しか入ってこない。儲かるのはいつも中抜けをする人たちだ。

 日本の悪しき習慣である。

 これまではこの方法は通用したかもしれない。

 原油高や物価高騰のインフレ時代において、切り詰めていかざる得ず、よそにまわせる余裕がなくなる。なので、これまでのやり方は通用せず、漁師の前にちょこんと座って媚を売っても、かならず望んだ魚がもらえるとは限らない世になってきている。

 そうなったらなったで野良猫は、散歩している人間に媚を売っては餌をもらうなど、もらえる先を変えてたくましく生きていくに違いない。

 


 

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