愛憎内臓妄想、哀よ恋

愛憎内臓妄想、哀よ恋

作者 黒羽椿

https://kakuyomu.jp/works/16817139556721634742


 ネグレクトの両親に育てられ黒い何かにすがる阪柳薫に現実を直視させる治療すべきか悩む医師は、視野の隙間に黒い何かをみる話。


 三点リーダー云々は気にしない。

 ちょっとホラーな作品。

 前後半にわけられていて、それぞれ主人公が違うけれど、前半の語りは自由帳に記載されていた内容で、後半は読んでいた医師に変わる。この書き方が上手い。


 前半の主人公は阪柳薫、一人称ぼくで書かれた文体。自分語りの実況中継で体験談が、自由帳に綴られている。ひらがなが多く用いた表現をされている。

 後半の主人公は自由帳を手にした阪柳薫を治療する人物、一人称私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 阪柳薫はネグレクトの両親に育てられ、部屋の遭うs味に見つけた黒い何かをクロと呼び、友達として過ごしていく。

 両親にクロの存在を話すと気味が悪いと殴られ、クロは薫のことを愛しているといって二人を消す。おじいさんがかわりにやってきて、クロよりもぬくもりがあって抱きしめてくれた。クロは姿を消すも一年後、おじいさんが倒れ、再びクロが現れる。いままでずっと一緒にいたといい、ずっとそばにいるからあの男をおろして独占してもいいよねといった。おじいさんがいなくなった。でもクロはずっと一緒だからもう辛いことはない。

「そうでしょ? クロ……」と自由帳に書き記した。

 阪柳薫の治療にあたる医師は、自由帳を読み、黒い何かは彼の本心だと考える。彼に現実を直視させるのは幸福を奪うだけでなくやっと手に入れたぬくもりを奪うことになるのだから、治療することが正解なのか判断できず部屋に戻ると、視野の隙間に黒い何かをみるのだった。


 主人公の薫の自分語りには、「ぼくはかおる。かん字は書けん、むずいから」とあるよに、ひらがなが多く使われている。

 育児付置きされて充分な教育を受けられず、知能レベルの低さを表現しているのかもしれない。

 そのわりには、「黒い友達」や「大丈夫」「無口で無表情な彼」など画数の多そうな感じが良く使われている。

 自分のことを「ぼく」とひらがなで表現しているかとおもえば、「僕」と漢字表記になっていく。

 これはおそらく、はじめは漢字が難しくて苦手だったけれども、徐々に漢字を覚えて使えるようになったと時間経過を表している。

 なので、主人公の薫は、ずいぶんと幼い頃にクロが見えるようになり、その付き合いは現在まで続いているのだろう。

 ただ、冒頭で「父と母は帰らない」としながら、「ははには、あたまがおかしい、そう言われた」「ちちには、気味が悪いと、告げられた」とひらがなになっていく。また、父以外に「とうさんはよく、あらっぽくなる」とも表現されている。

 なので、時間経過を表現して書かれているのではなさそう。

 薫の精神状態によって、変化していると考える。

 精神的に弱ればひらがな表記が増え、落ち着いてきたら漢字憑依が増える。事実、おじいちゃんが現れてからは、文面のひらがな表記が意図的に増えるようなことはあまり見られない。

 また、おじいちゃんよりクロを選んだあたりも、しっかりとした文章になっている。


「後半まではなんとか読めるものだった。しかし、後半は文字のような絵のような不気味なものになっていて、解読は困難を極めた」とある。

 意味がわからない。

 後半までは読めたのに、「後半は文字のような絵のような不気味なものになっていて解読は困難を極めた」とある。

 おそらく、前半は文字のような絵のようなもので、両親が帰らず一人きりの様子や、クロのことが絵で表現されていたと思われる。

 その絵から医師による、「だから、途中には少し意訳が入っ」た表現で、文章化して翻訳されたのが前半に書かれたものだったのだろう。

 なので自由帳(少なくとも前半)には、いままでの読んできた文面通りに書かれていたわけではないらしい。


 おじいちゃんは夏バテで入院し、熱中症だったのかもしれない。

 体が弱っていて、死んでしまったと仮定する。

 主人公がおじいちゃんも戻らなくなったらと妄想するとクロが現れ、おじいちゃんを殺して薫を独占しても、一緒にいてあげるからいいよねといって、同意させておじいちゃんはなくなっている。

 おじいちゃんはクロとは関係なく、亡くなってしまう状況だったのだろう。クロは薫の側にいるために弱気になっているところに付け入り、同意させたのだろう。

 仮に、クロが薫の本心だというのなら、彼自身のさびしさの具現化したものだろう。

 薫の会いたい気持ちがさびしさであるクロを呼んだ。

 会いたいは、ふれあいたい気持ちのこと。

 クロが薫に巻き付いたように、おじいちゃんが力強くだきしめてくれたように、誰かとふれあいたい気持ちがクロを呼ぶのだ。

 

 親から必要な愛情を得られなかった薫は、自身を救うために彼の本心が、クロという女の子を生み出したと医師は考えたのだろう。おじいさんと暮らしているときは、得られなかった愛情を得られたから、クロは現れなかった。

 なので、クロを見えなくするような、現実を直視することをさせても果たして本当に彼のためになるのかが医師にもわからないと思っている。

 そんな医師の前に、クロが現れた。

 二つ考えられる。

 一つは、黒い何かは薫の本心ではなく、得体の知れない存在。

 科学では説明できない妖怪の類かもしれない。

 もう一つは、必要な愛情を得られずに育った人の本心の象徴として、愛情が不足したときに誰にでも現れる存在がクロという可能性。

 前者なら、薫を守るために邪魔な存在である医師を殺しに現れた。

 後者なら、薫と接することで、ネグレクトを受けた過去を無意識に思い出した医師の前にもクロが出現した。

 物語の流れから考えると、おそらく前者と思われる。

 薫と一緒にいたい、独占したいクロは、両親やおじいさんを殺したように、医師をも殺しに来たのだ。

 クロは一体何なのかしらん。

 自意識の象徴。

 体に巻き付くとあるので、蛇状の形状をもっているとすると、エデンの園にて知恵の実を食べるよう勧めた蛇かもしれない。


 

 

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