僕のおうち
僕のおうち
作者 九日
https://kakuyomu.jp/works/16816927862082342055
犬のように育てられた男の子が救出される話。
どんでん返しがきいている。
ホラー要素があるも、最後は救われる。
主人公は犬(けん)という名前の男の子、一人称僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
女性神話の中心軌道にそって書かれている。
人間の男の子なのに、首に鎖をつけて両親に犬のような扱いをされて育てられている。
食事を減らされ、部屋でうずくまって眠る日々。両親は何処かへと出かけていく。最近調子が悪く、寿命かもしれないと思っているところへ、紺色の服と帽子を身に着けた見知らぬ二人が現れる。打たれるかもしれないと思い叫ぶも「ゴメンヨ」といい、「君、名前は言えるかい」と尋ねるので「ぼくは、けんです」と笑って答えた。
「僕は犬です。」の書き出してはじまるため、読者に主人恋は犬だと錯覚させている。
でも「僕には父さんと母さんがいます。僕の主でもあります」で、モヤっとする。両親がいるけど、主だという。主従関係にあるので、親ではないのに、父さんと母さんと呼ぶのはなぜだろう。
初めから違和感が募る書き出しが良い。
犬だから、「外へ出て危険な目に遭わないように、鎖をつけ」「太り過ぎて病気にならないように一日に一度だけごはんをくれ」「一年くらい前までは一日二回ごはんをくれたけど、僕が太り過ぎたみたいで、減らされ」たと説明されている。
さすがに犬でも、一日にご飯が一食なのは少ない。
なのでこの時点でモヤっとする。
「カーテンが開いていた窓から外へ目をやると、黄色い帽子をかぶってカラフルな色の四角いかばんを背負った子どもたちが、僕のおうちの前を通り過ぎていきました」とあり、流れてくる音楽と彼らとはなにか関係があるのかなと思ったりしている。
おそらく、主人公と黄色い帽子を被る子どもたちとは対比になっているのだろう。なので、主人公は、本当なら、黄色い帽子をかぶって保育園なり幼稚園に通っている年齢だと思われる。そうでないなら、小学生という可能性もありえる。
化粧をして短いスカートをして出かけていく母親は、水商売をしているのかしらん。
父親はどんな仕事をしてるのかしらん。
「黒くて苦そうな匂いのする飲み物をいつも持って帰ってくる」とあるけど、コーヒーかしらん。コーヒーを買ってきても、部屋には「たくさん置かれている黒くて苦そうな飲み物の入れ物」がそのままあるらしい。飲み干しているかもしれないが、容器はそのまま放置してあるという。
ということは、他の惣菜や弁当の容器などのゴミも、食べ終えたあそのまま捨てずに部屋に放置されたゴミ屋敷のような状況なのかもしれない。
「紺色の服と紺色の帽子を身につけ」た人たちが部屋に入って来て救出するのだけれど、ご近所から通報があったのかしらん。
あるいは、両親が犯罪を犯してて取り調べをし、その過程で部屋に入ると主人公を発見したのかもしれない。
しかも、主人公の名前は「けん」であり、冒頭「僕の名前は犬です」とあるので、犬と書いてけんと呼ぶのだろう。
役所に名前を届け出たとき、犬と届けたのかしらん。
調べると「犬」は名前に使うことができる。
とはいえ、役所の人はとがめなかったのだろうか。
育児放棄をする親が問題視され、ニュースで注目された時期があったことを思い出す。なので本作の内容には現実味を感じる。ひょっとしたら、今もどこかで、こんな境遇に遭っている子どもがいるかもしれないと思わせてくる。
主人公が、黒くて苦そうな飲み物と、知識不足な印象を受ける反面、カーテンだのカラフルな色の四角いかばんだの、短いスカートなど、かなり語彙を知っている。
この辺りのちぐはぐさに違和感をおぼえてしまう。
しかもラスト、見知らぬ人物に名前を尋ねられて「ぼくは、けんです」と答えているので、知能レベルは高い。ある程度の教育に触れていなければ、答えることができない。
なので、ひょっとすると主人公は初めはきちんと育てられていたが、ある時から犬のように扱われるようになったのかもしれない。たとえば、本当の両親は他界してしまい、親戚のこの二人に預けられた結果、ペットのような扱いをされてしまったと邪推する。
カクヨム甲子園に応募される前に読んでました。
初見で読んだときの感想を思い出すと、「そういうことか」と思う反面、似た作品を読んだ既視感をおぼえた気がします。ペットだと思ったら人間だったという発想は特筆するほどではないのかもしれないけれども、最後に主人公が救われた。このオチがなにより良かった。
主人公の笑顔とともに終わるため、読後感が良い作品です。
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