さよならSpaceまた来てCosmos

さよならSpaceまた来てCosmos

作者 槍月 

https://kakuyomu.jp/works/16817139557464184853


 花屋でバイトをはじめると、触角をはやしたバイトの彼女は宇宙人なのか確かめようと話をし「考え続けなよ」といわれ、地球の夜に包まれた僕は宇宙に戻る話。


 文章の書き方には目をつむる。

 すこしふしぎのSF。

 独特な世界観を描いている。

 面白い。


 主人公は花屋でバイトする青年、一人称僕で書かれた文体。自分語りで実況梅雨されている。主人公の視点で描写されている。


 それぞれの人物の思いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの書き方をされている。あのバイトとと呼ばれる宇宙人は、女性神話の中心軌道で書かれている。

 花屋でバイトをはじめた僕は、頭に触感を二本はやしているあのバイトを観察しているのは、宇宙人かどうかを確かめるため。

 同じ日シフトの入った三回目、「対話の相手の顔をじろじろ見るのは失礼。見られている私はきっとあなたの思っている以上に威圧と恐怖を感じる」と、一オクターブぐらい高くてふわふわと歌うような声にビンタされる。

 三日後、近くのホテルからカップルが飛び降りたことで花が売れるのに対して、供えられる花が腐っていくのを見るのが悲しくて嫌いでかわいそうだとつぶやき、「花屋は、美しくて、矛盾して、残酷なお店。長生きできない一瞬の美しさを、切り取って売るお店」と答え、主人公に花は好きかと聞かれる。人並みにと答えると、「誰かと比べないとあなたは自分の事もよくわからないのね、不思議」と痛いところをつかれる。

 蒸し暑い夜、繁華街で宇宙人と出会うと、触角は生えていないし頬にスパンコールもなく唇も普通の色だが、瞼はオパールのようにきらきら光っていた。花屋の仕事以外にネイルサロンで働くネイリストだと答え、嗜好品は高くて小さいからお金がいるので働かなくちゃと、発泡酒を買う。

 住宅地のはずれの川の欄干で、川から飛び降りたと語りだす。宇宙に飛び降りたけど死ねなくて、アオミドロだらけの川に浮かんでいたら宇宙から星屑が集まり新しい自分が生まれて宇宙人になって帰ってきたのだと話す。

「信じてないでしょ。嘘だと思ってもいいんだよ。嘘って、本能的に傷つかないために口にしたり信じ込んだりするものなんだから。別にあなたがどうなったって、私は知りもしないけど」

 いつのまにか触感がはえていた彼女の触感に触らせてもらう。痛がり、感覚器官だからもっと優しく扱ってよと笑い、「何でも理解していると思わない事ね。考え続けなよ、この身体に不釣り合いなほど大きな脳でね」と発泡酒を飲みほしてから欄干の下へ飛び降りる。水しぶきも上がらず、音もなく、カエルだけが鳴いていた。

 主人公は地球の夜に包んでは去り、宇宙に戻っていく。


 主人公の周りの店長も客たちも、「ぎょっとしたり、驚いたり、じろじろ見たりしないし、宇宙人も本当に自然に接客をする」とあるところに、モヤッとした。

 気になっているのは主人公だけ。

 つまり、異質なのはバイトの宇宙人の彼女ではなく、主人公なのかもしれない。

 おそらく主人公は、周りの人達のマネをすることで目立たないように生きてきた。

「あなた、花、好き?」と問われて「……まぁ、人並みには」と答えたことからわかるように、周りに溶け込むことを第一に考えていたのがわかる。

 でも、明らかに周囲とは異なるバイトの彼女を前にして、主人公はどう対応していいのか判断できずに観察し続けてきたのだろう。


 宇宙人の容姿の表現が実に良い。

 主人公の見たふしぎさを描写しつつ、ふわふわしていながら、確固として存在しているのを感じさせてくれている。


 ホテルからカップルが自殺し、花を飾って枯れて腐っていくのが嫌いで可愛そうという彼女。自分も自殺しようとしたことがあるからだ。

「せめて飛び降りる前に、その二人を慈しんであげたらよかったのに」とは、自分が自殺に至ったとき、慈しんでほしかった現れかもしれない。


 かつて彼女は居場所(スペース)がなくて自殺を試みる。でも死なず、ばらばらになった星屑が、宇宙の彼方からふわふわ集まって彼女の中に吸い込まれ「新しい私」である宇宙(コスモス)が生まれた。コスモスとは秩序であり、これまでの古い考えから新しい考えをする自分に生まれ変わったのだろう。

 このとき、彼女が宇宙(コスモス=秩序)の中心となったと邪推する。

 橋の欄干から飛び降りて消えただけならば、「ゆっくりと周りに音が戻ってきて、気だるそうに蛙が鳴いていた」で終わってよかったはず。

 だけど残り二行、続いている。


  地球の夜が、僕を押し包んで去っていった。

  そうやって、僕は宇宙に戻ってきた。


 この二行から、宇宙の中心である彼女が橋の欄干から落ちる分だけずれたと想像してみた。「地球の夜が、僕を押し包んで去っていった」とは、地球が主人公から離れていったことを意味し、「そうやって、僕は宇宙に戻ってきた」とは、主人公が宇宙に取り残される形となったことを意味しているのだろう。

 宇宙に戻ってきたということは、主人公が宇宙から来た宇宙人だったと思える。

 つまり、彼女は異質である主人公を追い出したのだ。

 

 もしくは、彼女が飛び降りることで、かつて彼女が経験した星屑が入って新しく生まれ変わる現象を、主人公も体験したのかもしれない。

 

 本作では、彼女の「何でも理解していると思わない事ね。考え続けなよ、この身体に不釣り合いなほど大きな脳でね」を読者に伝えたかったのかもしれない。

「花屋は、美しくて、矛盾して、残酷なお店。長生きできない一瞬の美しさを、切り取って売るお店」とバイトの宇宙人の彼女はいっている。

 花屋は学校や若さを売り物としている社会の比喩かもしれない。

 だとすると、花は人であり十代の若者を暗示している。

 若いときは一瞬だけ。

 美しさをもった若さに価値を見出す社会は、実に残酷だ。

 やりたいことをやりなさいと言って、はみ出した者は否定される。だからといって、髪型やメイク、服装を人と同じにし、他のみんなの考えや行動を同じにするのが生きることではない。

 半端な知識や真理と呼ばれるものを鵜呑みとせず、自分の頭や体を使い、目の前の問題からなにかしら教えを見出すことが大切だと説いているのだろう。

 同じであれと強要されながら、他人に言われたまま生きるのを許さない矛盾。独自の考えを持ちながらみんなと同じ行動をする生き方を自分で考えないと、主人公みたいに世界から追い出されてしまうかもしれない。


 人生に正解はなく自由であるはずなのに、社会にはルールが存在することからズレが生じ、世に矛盾が生まれているのだろう。だけど、社会のルールは人が考案したものなので、時代に合わせて変えられることを忘れてはいけない。


 読後にタイトルを見て、卒業や引っ越しなど、いま自分がいる場所(スペース)にさよならしても、秩序(コスモス)ある世の中に帰結しなくては生きていけないことを改めて思い出させてくれた作品だったのかもしれないと思った。


 コメント欄に作者さんの作品にイメージが書かれていた。

「イメージとして宇宙の『繰り返す』というのが根底にありました。話の最後の方で宇宙人が飛び降りたのは、宇宙人がその少し前に語った『バンジー』とリンクした行動……繰り返しの行動……をイメージさせる終わり方で締めたかったからです。(なので、タイトルにも『さよなら』『また来て』という言葉を入れています『さよなら三角 また来て四角』のもじりですが)」

 さよなら三角また来て四角とは、言葉遊びの一つ。


 さよなら三角 また来て四角

 四角は豆腐 豆腐は白い

 白いはウサギ ウサギは跳ねる

 跳ねるはカエル カエルは青い(みどり)

 青い(みどり)は柳(葉っぱ)

 柳(葉っぱ)はゆれる

 ゆれるは幽霊 幽霊は消える

 消えるは電気 電気は光る

 光るはおやじのハゲ頭


 地域によっては異なるものもあり、はじめに戻るバージョンもある。


 さよなら三角 また来て四角

 四角は豆腐 豆腐は白い

 白いはウサギ ウサギは跳ねる

 跳ねるはノミ ノミは赤い

 赤いはほおずき ほおずきは鳴る

 鳴るはおなら おならはくさい

 くさいはできもん できもんはうつる

 うつるは鏡 鏡は割れる

 割れるはせんべい せんべいは甘い

 甘いはようかん ようかんは四角

 四角は豆腐 豆腐は白い

 ※この後エンドレスに続く


 くり返しをイメージしているのならば、タイトルの付け方は上手いと思う。

 また、「作中で現れる自殺や生活苦など普遍的で俗世的な苦しみはいつかは消えるかもしれないが、宇宙はずっと続いてゆく……というぼんやりとしたテーマを表したラスト、とでも表せばよいでしょうか」とある。

 前衛的な作品である。

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