七三キャットウォークスルー

七三キャットウォークスルー

作者 綿飴まき

https://kakuyomu.jp/works/16817139557601437803


 男子高校生の千道が、一緒に寄り道しようと声をかけてきた彼女と化け猫通りを寄り道する話。


 疑問符感嘆符云々は目をつむる。

 ちょっと怖いようで愉快なファンタジー。

 本作が面白いのは、ドキリ、ビックリ、裏切り(盛り上がり)が描かれているから。

 怖い体験をしたのに、読後もなんだか爽やかである。

 こんな化け猫通りがあったら寄り道してみたい。


 主人公は男子高校生の千道、一人称僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。巻き込まれ型、到来譚である。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで今日kんするタイプの書き方をしている。

 友達のいない千道は授業後、前髪を七三にわけた女の子に「一緒に寄り道しよう」と声をかけられる。友達と下校するのが彼女の夢だった。

 校門を出て右に曲がるのが本来の通学路なのに、彼女に手を引かれて左の道へ、知らない道を歩いていく。途中、子猫に出会うも、現れた飼い主は一つ目だった。歩けば歩くほど猫が増えていき、猫が群がる店では国産マタタビを売っていたのは角の生えた赤鬼。

 更に勧めば鬼にかっぱ、一つ目小僧、洗濯物を干す骸骨に、小人が走り回る。でも、彼らには尻尾や耳が出ており、どうやら猫が化けているとわかる。

 通りをぬけると、いつもの通学路の大通りに出ていた。

「こんな風に帰り道を友達と楽しむの夢だったんだ。夢が叶った! これでもう未練はないよ! 本当にありがとう!」

 と手を振って、彼女と別れる。

 名も知らず、おまけに主人公の学校は男子校。いったい彼女は誰だったのかと思いつつ、世の中には不思議なことが会ってもいいじゃないかと受け止めるのだった。


 彼女もまた、化け猫の類だったのだろう。

 友だちといっているので、かつて主人公と出会い、仲良くなった猫かもしれない。

「夢が叶った! これでもう未練はないよ! 本当にありがとう!」といっているので、ひょっとするとすでに死んでいる猫かもしれない。

 未練が残っていた猫は、最期の願いを叶え、成仏したのだ。

 きまぐれな思いつきで、突然主人公に起きた出来事。まさに猫らしい。


 女の子に手を掴まれ「なすすべもなく連行されていく僕を、クラスメイト達の啞然とした表情が見送った」のところが、目に浮かぶようで面白い。


 子猫の飼い主が一つ目だったとき、彼女がうろたえもしないところに、彼女も同類なのかと思わせる。話が進むと、化け物がいっぱい出てきて、大変な所に来てしまったと思ったところで、「あそこの小鬼は着物の下から尻尾が覗いているし、あっちの三つ目さんは耳が思いっきり出ている。さらにそぐそばにいらっしゃる頭から植物が生えている方に至っては顔がまんま猫である」と、化け物じゃなくて、化け猫なんだと安心する主人公。


 どうして化け猫だと、怖さが薄れては慣れ、道歩きを楽しむ余裕が出てきたのか?

 化け猫も化け物も同じだというのに。

 おそらく、ドア・イン・ザ・フェイスという、無理難題を突き付けて断らせたあと、要求水準を下げた本来の要求を出す要請法と同じだと推測する。

 化け物通りに迷い込むなど、通常ありえないことが起こっている。

 そんな状況を前に主人公は、「あまりに奇妙なことが起こると、人間は思考を停止してしまうことを僕は初めて知った」と語るほど、目の前の有様に戸惑い、受け入れることができなくなった。

 その後で、「着物の下から尻尾が覗いているし、あっちの三つ目さんは耳が思いっきり出ている。さらにそぐそばにいらっしゃる頭から植物が生えている方に至っては顔がまんま猫」だと気づく。

 主人公は「大の猫好き」である。

 同じ化け物なら、大好きな猫が変身しているのならば認めることができた。だから、道歩きを楽しむ余裕が生まれてきたのだろう。

 もし犬が変身する化け犬通りだったら、主人公は受け入れることはできず、ただただ恐ろしく、一刻も早く通り抜けたい衝動に駆られたに違いない。


 前髪の分け目はつむじの位置や渦の向きで決まり、右分けはミステリアスで女性らしい印象、左分けはやさしく知的な印象にみえる。おそらく、右分けにしていたにちがいない。

 ちなみに七対三は美人に見える黄金バランスといわれる。

 彼女さんは主人公に美人にみえるようにしていたのだ。

 なので、彼女なりに主人公に気に入ってもらえるよう精一杯のおめかしをしていたと思われる。


 あとで発覚する、「だって、僕の高校は男子高なんだから。女子生徒なんて、いるはずがないんだから」は、意表を突かれた。

 こういう読者を裏切ってくれる趣向があるからこそ、本作を面白く楽しむことができたのだろう。

 最後、「でも、まあいいか。なんのかんの楽しかったし。世の中には不思議なこともある。それでいいじゃないか」と思った主人公の軽さ、状況を楽しむ生き方は素敵だし、大事な考え方だと思う。

 ぜひ見習いたい。

 本作を通して、読者も素敵な体験ができたと思う。

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