ギャンブラー

ギャンブラー

作者 嘉御白 狐烏猫 (かみしろ こうねこ)

https://kakuyomu.jp/works/16816452219500409943


 鬱病の水樹が「外部の刺激によるうるささを我慢してまで死ぬ」か「ルールを破ってまで耳を塞いで死を遠ざけるか」のギャンブルをしながら登校している話。


 文章の書き方云々は目をつむる。

 ある種、コントのような作品。


 三人称、先生視点、生徒水樹視点、神視点で書かれた文体。概ね会話文で構成されている。


 それぞれの人物の思いを知りながら結ばれあ状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの書き方をしている。

 先生はイヤホンで音楽を聞きながら登校する水樹という生徒を呼んで話を聞いているのは、指導してやめさせるため。

 やがて水樹は本来持っている力を発揮。ギャンブルの話をし、水樹自身が鬱病で精神科に通っていることを確認し、死の欲望を感じていることを打ち明けながら、「死にたくなる気持ちってどんなもの?」と尋ねる先生は、時間を書けて保護者とも相談しながら考える問題だと判断していく。

 先生は指導を諦め、「ごめんね、気づけなくて」と謝るついでになぜイヤホンで音楽を聞いているのか尋ねる。

「外部の刺激によるうるささを我慢してまで死ぬ」か「ルールを破ってまで耳を塞いで死を遠ざけるか」の二択のギャンブルをしていることを理解することで、先生と生徒の関係性が再構築される。


 鬱状態になると、感覚が過敏になる。

 日差しもまぶしすぎて、だから顔を挙げられず、うつむいて歩いてしまう。そういう場合はサングラスをかけると落ち着く。

 同様に、道を惑わすような騒音や雑音に対してイヤホンをつけて音楽を聴くのはよくある話。してる人も多いだろう。

 ただし、イヤホンをつけている鬱の人にとってはプラスになる行為でも、音楽を聞きながら自転車を運転して周囲に気づかず人をはねてしまった事故を覚えている人もいるだろう。

「この学校周辺に住んでいらっしゃる住人の方から『危なそう』『不安だ』って言う声が届いている」のは、周辺に住んでいる住人が事故に巻き込まれるかもしれないから、生徒の行動が「危なそう」で、いつ自分たちが巻き込まれるのか「不安だ」と言っているのだ。

 生徒が、「うるささに発狂して死を選ぶか」あるいは「音を遮断した結果事故に巻き込まれるか」について議論していたわけではない。

 

 水樹という生徒の狡猾さを楽しむのが、本作の意図かもしれない。

 鬱病はどこまで正しいのかしらん。

 HSP(Highly Sensitive Person:非常に敏感な人)の可能性も考えられる。

 外界の刺激や体内の刺激にきわめて敏感に反応してしまう気質の人で、いわゆる「繊細さん」である。

 特になじみのない環境では、他人が感じないほどの些細な刺激でも神経がたかぶる傾向があり、神経系の興奮が長引き、疲れやすくなる。

 HSPは生まれながらのもので、個人差が大きいといわれる。

 特徴としては「周囲の些細な変化に気づきやすい」「小さな刺激に敏感に反応する」「情報を深く処理する傾向がある」などが挙げられるので、聴覚過敏の傾向も見られる。


 こういうタイプの子は、たしかに理屈で理論武装する傾向がある。なので、水樹という生徒のような子は実在する気がして、現実味を感じる。

 学校側としても、生徒を預かっている身なので、生徒側に立って考えなければならない弱みもあるのは仕方がない。

 妥協点として、音楽を聞いて耳をふさぐより、ノイズキャンセル機能のイヤホンをはめて音を軽減させてみてはどうかしらん。


 追記


 主人公は、感覚過敏かもしれない。

『障害者の権利に関する条約』において、第二条の定義にある「『合理的配慮』とは、障害者が他のものとの平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう』と書かれている。

 二〇二一年五月二成立した障害者差別解消法(正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」)の改正により、これまで民間の事業者の「努力義務」とされていた合理的配慮の提供が国や地方公共団体などと同様に「義務」(法的義務)とされた。この改正法は、公布日である二〇二一年六月四日から起算して三年以内に施行される。


 これにより、国公立学校だけでなく学校法人でも合理的配慮が義務化される。

 つまり、障害がある人が生活する中での困りごと、障壁を取り除く工夫を考えなければならない。

 主人公は聴覚過敏のため、登下校および校内でのイヤーマフ(通称:耳栓。音を遮断する目的の道具、または器具を指す。 頭からかぶり耳全体を覆うタイプのものはイヤーマフと呼ばれる)の使用を認める処置を学校側は取ると考える。


感覚過敏研究所| KABIN LAB

https://kabin.life/

 

 

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