恋愛洪水〜振られた男は愛を知る〜

恋愛洪水〜振られた男は愛を知る〜

作者 不管稜太

https://kakuyomu.jp/works/16817139558345341120


 同級生に振られた菅原雪翔は慰めてくれた幼馴染の橘柚羽の告白を聞いて愛を受けることを知り、彼女と付き合い、数年後プロポーズする話。


 サブタイトルに『ドラスティック・コンフェッション』とある。思い切った告白という意味かしらん。

 奪われて、再構築して結ばれるタイプの話。

 ハッピーエンドは実に良い。


 主人公は高校二年生の菅原雪翔、一人称俺で書かれた文体。自分語りで実況中継している。平易な文章。主人公の体験を綴った形式なためか、描写はあまりない。


 それぞれの人物の思いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じる書き方をしている。

 藤原向日葵に告白して振られた幼馴染の藤原雪翔は、同級生で幼馴染の橘柚羽に泣いているところをみられてからかわれ、振られたと告げるとベンチに座らされて、頭を包み込むようにハグされて慰められる。

「向日葵がめちゃくちゃ好きだったんだよ!」

 と嘆く主人公に対して柚羽は「そんなことはない!」と強い口調で言い切ると「わたしは、どう⁉」わたしには向日葵ちゃんにぜったいに負けてないものがあるもん!」「雪翔が好きって気持ちだもん!」と告白する。

 やがて主人公は本来持っていたかもしれないけれど、いままでの恋では感じられなかった「愛を受けること」を知る。

 二人の関係性は逆転、立ち上がった主人公は柚羽を抱き寄せる。

「向日葵しかいないなんて、嘘だ! 俺には柚羽がいた!」「俺は、柚羽が好きだ! 柚羽が一番、大好きだ……!」 

 幼馴染から恋人へとなり、二人は手をつないで歩いて行く。

 あれから数年後。社会人になった主人公はあのときの出来事をふり返り、愛を受けるという暖かいものをくれた柚羽を、世界で一番愛している。だから「俺と結婚してくれませんか」とプロポーズするのだった。


 描写が少なく、言葉をぽんぽんぽんと、置きに行ってならべていくような軽さがある。読みやすい。そのせいもあってか、高校二年生の二人が小学生のように幼く感じる。

 おそらく小学生の頃のまま、幼馴染としての関係性が続いてきたのだろう。その姿が垣間見えるようだ。

 

 主人公は幼馴染の彼女に「……向日葵よりもいい女なんていねぇし……!」といってしまう。それどころか、「俺は向日葵が……、向日葵が大好きだったんだ……! 向日葵の可愛いところも、元気なところも、優しくところも、話しやすいところも……、ほんと、唯一無二なんだよ……! 向日葵がめちゃくちゃ好きだったんだよ!」と、次から次にどれだけ好きだったのかをならべていく。

 柚羽が主人公のことをなんとも思っていないなら問題ないのだけれども、彼が好きなので、他の女のことを褒めて「俺には、あいつしか……いなかったんだよ!」といわれるのだから、たまったものではない。

 そんなこといわれたら、「そんなことない!」と言い返したくもなる。この辺りの話の流れ、自分の気持ちを吐露して主人公が知っていく流れは無理がない。

 二人の感情の起伏が交互に来て、最後一つに重なる書き方は見習いたいところ。

 

 柚羽の「わたしはずっとこんなに好きだったのに! ぽっと出の可愛い子に雪翔の気持ちを取られて! それなのにその子は雪翔のことが好きじゃないなんて! そんなのずるい!」のセリフが実にい。彼女からどうみえていたのかがよく分かる。

 

 主人公が気づく「愛を受けること」「『好き』って言われること」は現実的で、共感できるところだと思われる。

 なにも恋愛だけじゃない。

 私たちは何かしらに片思いをし続けている。

 何かになりたい、何かをやってみたい、どこどこへ行ってみたい。

 受験や就職、大会の優勝や推しの応援も何もかも。

 誰かに「好き」や愛を伝えることはしても、返ってくることは少なく、受けることは稀なのだ。

 だから、愛を受けることで「ものすごく暖かくて、胸が満たされるように嬉しいものだ」と感じられる経験は、遠い日の幼い頃に親から与えられた経験しかないかもしれない。

 それほどまでに懐かしく、渇望しているものだと思われる。

 主人公の菅原雪翔だけでなく、幼馴染の橘柚羽も同じ気持ちだったのではないか。

 主人公のセリフ「向日葵しかいないなんて、嘘だ! 俺には柚羽がいた!」「俺は、柚羽が好きだ! 柚羽が一番、大好きだ……!」を聞いた彼女もまた、嬉しかっただろう。

 聖書にもあるように、「求めよさらば与えられん」である


 社会人になってからの部分を読むと、振られたあとで幼馴染に告白して付き合いはじめた日を回想していたのだと気付かされる。

 なので、主人公のプロポーズの結果がなくとも、きっと二人は結ばれると読者は想像できる。


 短い話の中でドラマチックなことを描けていて、すごいなと素直に思える。ただ、描写が少ないので補おうとするせいか、マンガやドラマなど映像にしたらどう描けるだろうかと考えてしまう。

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