イス中毒
イス中毒
作者 夢咲彩凪
https://kakuyomu.jp/works/16816927861905956389
イスづくりの変人アルジャは町の人達にクウキイスを売り、次にアイスを売り出す話。
コント、あるいは手品を楽しむような話。
三人称、アルジャ視点と神視点で書かれた文体。ですます調で、御伽噺のような語り聞かせる書き方をしている。
それぞれの人物の思いを知りながら、結ばれない状態にもどかしさを感じることに共感する書き方をしている。
イスづくりの変人、アルジャは町の広場で人々を誘導しては椅子を売って稼いでいる。
今回は手軽さが売りの『クウキイス』。しかも個数限定だからこれまで銅貨数枚で売っていたのに、値段が銀貨五枚と高価。それでも飛ぶように売れる。買いに来た人たち全員が買えたことにいぶかしがる老婦人。だが、売り切れ完売は事実。アルジャは帰っていく。
完売した十日後、冬なのに薄着でたくましくなった足を軽く曲げてクウキイスに座りながら、新たなイス『アイス』を求めて長蛇の列をつくっている。
ストーリーは、童話『はだかの王様』をモチーフにしたと見受けられるも、設定や結末は異なる。
オチが二回きている印象があり、アイスが蛇足に思えるかもしれない。
オチとは、「これまでの話は何だったのか」と書いたもの。
非日常敵な体験が、主人公の人生に与えた影響や意味を暗示することを描くもの。
アルジャは町の人に『クウキイス』を売った。文字通り、目に見えず、形も実体もない。老婦人が指摘したとおり、個数限定といいながら、買いに来た人間が全員購入できるのはおかしい。
しかも、ドラえもんのひみつ道具のようなネーミング。
ダジャレである。
そもそもクウキイスなんてイス、存在したのか?
アルジャは、「形や高さまで自由自在。自分好みに調節できちまう。使い方は簡単、ただ心の中で『座りたい』と唱えるだけ。腰を下ろせば、あら不思議。そこにはもう魅力的なイスの出現だ」「極めつけは、健康にいいってことだよ。美しい女性はもっと美しくなれる。逞しい男はもっと逞しくなる」といっている。
ようは自分の足で踏ん張り、座っている状態を保っているだけ。
明らかに詐欺である。
「名をアルジャ。その町じゃ、知らない者もない有名な変人で、よく口の回る男でございます」口八丁手八丁、言葉巧みに売っているのだ。
これまで売ってきた商品は「空飛ぶイスや、喋るイス、一瞬で眠れるイスに、嫌いな相手にプレゼントすれば尻もちをつかせられるイス」
少なくとも、イスという形状はしていたのだ。
だが、今回売ったのは、実際には存在しないクウキイス。しかもこれまでの値段よりも高い。
つまりアルジャは、今回の詐欺を働くために、いままでは奇抜なイスを作っては安く売っていたのだと推測する。
まさに詐欺師の手口ではないか。
完売して町から去っていけば、詐欺師として終わる。
でも本作は違う。
十日後、新たなイスを売りにやってくるのだ。
しかも、町の人達は前回購入したクウキイスに座って、たくましくなった脚をして、寒い日なのに汗をかいて。
そんな町の人達に売るのは、『アイス』である。
本作は詐欺師の話ではなく、ダジャレの話だったのだ。
町の人達は、イスを買っているのではない。アルジャのダジャレを楽しむために払う代金。そういう話なのだろう。
きっと、この町、世界にはろくに娯楽がない。
アルジャのお陰で、町の人達は楽しく過ごせているに違いない。
この先も、ウグイスやザイス、ボイス、ナイスなどの新たなイスを作っては町の人達を楽しませることだろう。
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