音楽群像劇

音楽群像劇

作者 水神鈴衣菜

https://kakuyomu.jp/works/16817139554776936589


 小さい頃から音楽好きで青春を音楽に費やし、辛い思い出も全てが自分の糧で大切な思い出と言い切る主人公の人生観。


 音楽は国境は超えるという。

 第二の言語ともいわれるほど、言葉が通じなくても、人と人を結ぶことができる。

 ともに音楽をしてきた仲間なら、離れていた時間が長くとも、なおさら心を通わせることができるだろう。 


 主人公は男子、一人称僕で書かれた文体。自分語りで実況中継されているところもある。

 本作は小説の形を取りながら、架空の人物、主人公がこれまでの体験から何を学び、それが今の自分にどのような影響を及ぼし、なにを得たのかをエントリーシートに書き込んだ人生観、を彷彿させる。

 

 男性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 子供の頃から音楽が好きで、大きな高校の吹奏楽部の動画を見て惚れ込み、その高校に入ろうと決意して勉強してきた。

 入学した中学は小さく、吹奏楽部も小さかった。吹奏楽部の動画を見てトランペットを憧れていたが、小学校からブラスバンドをしてきた子たちが選び、手にできなかった。

 クラリネットになり、先生に「君の唇は木管向きだね」とほめられ、優しい先輩が親切に教えてもらい励んでいく。

 先輩が卒業して、自分が先輩となる。ピアノを習っていた後輩にクラリネットを教え、共に励んでいく。

「ほらまた! 先輩は上手ですし、いつも吹いてる時とっても楽しそうなんです。今日の先輩は楽しそうじゃなかった」「先生がよく言うじゃないですか、『演奏してる側が楽しまなきゃ聞いてる人は楽しくないんだよ』って。いつも通りでいいんですよ先輩」

 吹奏楽部のコンクールで後輩に励まされ、本番を挑む。

 コンクールの結果は全ての学校を三つにわけた時の三番目の銅賞だった。悔しい思いをするが、次のステージを迎えるまでに上達するを繰返して、来年のステージまでにいまよりもっと最強になろうと後輩と誓い、自分が引退しても部活は大丈夫だと思うのだった。

 その後、大学生になった主人公は念願かなって自分のクラリネットを買い、カラオケ店にいってはこっそり吹いている。

 あの後輩と再会すると、吹奏楽部の顧問になりたい夢を持って中学教員になるため頑張っていると聞きつつ、音楽に青春を費やした楽しい日々が、糧であり大切な思い出だといい切るのだった。


 中学の吹奏楽部のことは語られているのに、高校の様子がない点にモヤッとした。

 作者が高校生で現在吹奏楽部に入っているから、あるいは吹奏楽部に入っていないから割愛したとも考えられる。


 主人公は、吹奏楽部に熱中してきた。

 第一希望が叶わなくても、「君の唇は木管向きだね」別の魅力を見出してくれた先生のお陰で嬉しくなり、やる気も出た。

 クラリネット初心者の主人公に、親切な先輩がいたから、拭けるようになった。


 ピアノが弾ける後輩がクラリネットのパートに入ったことが、主人公にとっては大きかった。

 緊張してしまったときも、「本番くらい『自分上手だな、今日も上手く行くだろ』って思ってなきゃ。ピアノの発表会の時にお母さんが教えてくれたんですよ、自己暗示っていうんでしたっけ」と沈みかける気持ちをもりあげて、「ほらまた! 先輩は上手ですし、いつも吹いてる時とっても楽しそうなんです」と励ましてくれた。

 コンクールで銅賞に終わったときも、共に悔しい中、新たな目標をかかげ、次のステージに向けて励み、来年のコンクールこそ金賞を取ろうと勇気づけてくれた。       

 困ったときに励ましあい、高め合える仲間を得ることができた。


 主人公にとって一生を通じて役立つ財産は、音楽だった。

 全力で音楽を励んできたからこそ「毎日が楽しくて充実」し、「辛い思い出も全てが自分の糧で、大切な思い出」、かけがえのない財産だと語っている。

 音楽をしていれば、後輩とも通じ会える。

 離れていても、また会って、共に笑い会える。

 主人公は、そう胸を張っていい切っているのだ。


 音楽に憧れて吹奏楽をはじめた多くの子達が、本作のような青春を送っているのかもしれない。

 優勝するのは、ただ一校のみ。

 頂点を目指して練習に励み、大多数の学校、生徒が金賞を手にすることなく、青春時代を終える。

 それでも、がんばった時間は決して無駄ではない。

 出会いや得た体験から、喜びや悲しさ、悔しさなど様々な感情を学び、糧にして大人になっていく。

 過ごした青春は、その人だけのものであって、かけがえのない財産である。

 だからこそ、二度とは戻れない青春時代を、無為簡素に過ごすことがないよう、どんなことでもいいから、結果がすべてではないから、ただ一つに自分のすべてをかけて熱中する日々が人生には必要であることを、本作は思い出させてくれる。

 

 

 

 

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