死神

死神

作者 福山慶

https://kakuyomu.jp/works/16816927863085071636


 自殺者を庇って死んだ少年が死神となり、自殺者がいなくなればと願いながら東尋坊で自殺した人を地獄送りする話。


 自殺について考えさせられる話。

 本作を読んで、煉獄に落ちた清太の『火垂るの墓』が浮かんだ。

 東尋坊の特徴である輝石安山岩の柱状節理の崖は、世界に三箇所しかないということを、本作で知ることができた。

 朝鮮半島の金剛山とスカンジナビア半島の西海岸と並び、東尋坊は『柱状節理世界三大絶勝』といわれている。

 地質学的にも極めて貴重だから、国の天然記念物と名勝の両方に指定されている。

 それだけ珍しい場所ゆえに、入り組んだ地形のため飛び降りた遺体は見つかりにくく、自殺の名所と知られているのは、地元の人にとって嬉しくないに違いない。

 

 三人称死神の少年視点で書かれた文体。神視点で福井県坂井市三国町安島に位置する東尋坊の説明からはじまり、噂話から本編へと入っていく。少年の視点で描写され、お話が進んでいく。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 五年前に自殺者を庇って死んだ日中学生の少年は死者となり、

鎌を持つ死神の骸骨男と東尋坊で自殺する人たちを断罪して地獄送りにしている。

 夜の東尋坊に、黒いブレザーを着て青いネクタイを着けた女子高生と思しき少女が現れる。

 死んだ少年を、生きている少女は見ることができない。でも自殺者はあの世と近くなるため死神の姿が見えるという。

 少年はかつて自殺を止めることができたやり方、骸骨男の姿を見せて驚かせる方法を用いるも、少女には見えていない様子。

 だが、彼女は飛び降りて死んでしまう。

 魂だけになった少女は骸骨男を見ておどろき、少年に助けを求める。「自殺はその人の魂を怨念として現し世に残す。だから、君の魂を地獄に追い遣らないといけない」と語り、「自殺は罪とされてるから。遺憾だけど」と伝え、彼女を地獄へ送る。

 少女は「この世界で生きてる方が苦痛だから」と涙を流していた。

 ムカつく女だったと蔑む骸骨男。

 自殺者がいなくなってほしいと心底願っている少年は、彼女をはじめ、死にたいと思う気持ちは誰にだってもっているから蔑むものではない、自殺を考える生者を擁護する。

 自殺者を庇って死んでから今日で五年。自殺者がいなくなればと願いながら、少年は自殺者を地獄送りにしていく。


 死神となった少年は、五年前に死んでいる。

 だから生者には見えない。

 骸骨男は地獄からきていて、自殺者は大罪人で地獄送りだから、霊感によって、地獄に近くなるため死神である骸骨男が見えるようになるという。

 自殺した少女がみえなかったのは、見えていても気にしなかったのか、霊感がなかったのかのどちらかだろう。

 死んで少年も見えるようになった。

 少年は死んでいる。

 でも地獄に行っていない。

 行けないのだ。

 骸骨男の言葉を借りるなら、「自殺をする奴なんてのはみんな大罪人」「この大罪人が。貴様は地獄送りだ」少年の言葉なら「自殺はその人の魂を怨念として現し世に残す。だから、君の魂を地獄に追い遣らないといけない」

 自殺者をかばって、誤って落ちて死んでしまった少年は、自殺したわけではないので、怨念を現世に残すわけではない。だけど、地獄にも追い払えない。

 寿命をまっとうすれば極楽の道も開けたかもしれない。

 結局、少年はどこにも行けず、この世とあの世の狭間である煉獄を彷徨うしかないのだ。

 少年は他に行き場がなくて、東尋坊で自殺志願者が来る度に骸骨男をけしかけては、なんとか自殺を食い止めようとしつつ、死んだ魂を地獄に送っているのだろう。


 自殺が罪かどうかは、生者の考えや思想といった都合によるところが大きい。そもそもあの世から帰ってきて「自殺すると大罪なんだって」と語った人がいないので、骸骨男の「自殺をする奴なんてのはみんな大罪人」が正しいかどうかは誰にもわからない。

 でもね。

 人がなくなると、近親者、周りの人たちが辛く悲しい。

 一番は、自分のことを知ってくれている人がいなくなるから。

 自分の記憶がなくなると、周りはすべて赤の他人で、誰の助けも得られない状況に放り出されるのと同じ。

 親兄弟親戚友人知人好きな人が亡くなると、同時に自分を知ってくれている記憶もこの世から消えてしまう。自分の存在が薄くなる。

 誰も自分を知っている人がいなくなると、雪が溶けるように、この世からいなくなりたいと願うかもしれない。

 自殺が罪という一面はあるし、いうのは簡単。だけれども、そうならないために関係性を深めていくことを常にしていなければ、軽々しく「自殺は罪だ」と相手を責めることをいってはいけない気がする。

 

 少年が救われる日が来るのだろうか。

 いつか天に帰るその日が来ること願う。

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