だから僕は紙飛行機を飛ばす。

だから僕は紙飛行機を飛ばす。

作者 穏水

https://kakuyomu.jp/works/16817139557414842014


 五年前になくなった母親との再会を願って、折っては飛ばし続ける青羽の話。


 主人公は男子高校一年生の青羽、一人称僕で書かれた文体。自分語りの実況中継でつづられ、白空さんの描写はされているも、全体的に描写より主人公の心情が多い。後半は回想を交えて語っている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 小学六年生の時に母親の見舞いに通っては見舞い後に紙飛行機を飛ばしていたが、母を亡くして以降もおるのを辞められず、高校一年生になっていた。

 いつものように昼休み、紙飛行機をおって片付けようとすると隣の席の白空さんに声をかけられる。紙飛行機を見せてと言われて彼女に見せると、折っていたのをずっと見ていて、楽しそうにみえる主人公の顔を見るのが好きになったと言われて照れる。

 なぜ折るのか聞かれ、母親の見舞いの帰りに飛ばしていたが、亡くなってもやめられなくなり、どこかでまた母親に出会えることを願っていることを伝えると、「会えるよ! 絶対。だって、会えなかったら今までの青羽君の努力は無駄になるもん!」とまで言い切る。

 彼女の言葉を信じ放課後、校舎の最上階の窓から紙飛行機を飛ばす。いつかまた出会えることを願って、紙飛行機は空高く飛んでいく。


「あ、直さないで」

 と、紙飛行機をしまおうとしたとき彼女に言われる。

 彼も手を止め、

「どうしたの?」

 と聞き返している。

 彼らは西に住んでいるのだろう。大阪かもしれない。

 片付けることを直すという。方言ですね。


 継続は力なり、という言葉が浮かぶ。

 五年もの間、ほぼ毎日折り紙を折り続けていれば、「自分で見つけ出した折り方」あとしても、「無駄な折り目もなく、一切のズレもない僕の紙飛行機は、職人技と化」すのも頷ける。

 この紙飛行機は放課後、空へ飛ばされている。

 これまでの紙飛行機も飛ばされていたのだろう。

 余計なことを考えると、飛ばした紙飛行機はそのまま放置されているのでは、と想像してしまう。

 千八百以上の紙飛行機を、彼は飛ばし続けてきたはず。

 ゴミを捨てるな、と考えが働く。

 働くのだけれども、一つくらいは、届いているかもしれない。

 すくなくとも隣の席の白空さんは、主人公の折る姿に目をとめたほど、何かしらの影響を誰かに与えているのだ。

 母親に届いていなくとも、たくさん飛ばした紙飛行機の一つくらいは、誰かの役に立っていたかもしれない。

 そんな想像をすると、彼の行動は無駄に思えなくなる。


「青羽君が紙飛行機折ってるときだけ、顔が楽しそうで。そんな生き生きとした青羽君の顔を見るのが好きになっちゃってさ」と白空さんは答えている。

 紙飛行機を折るときだけ、彼は楽しそうな顔をしている。

 主人公にとって、母親という存在が、いかに大切だったのかがわかる。大切なものを失ったいまは、いきいきした顔をしていないのかもしれない。


 紙飛行機がなくなった人に届くわけがない。

 主人公もそれはわかっている。

 もはや惰性のように習慣付けで作ってるようなものだった。

 だけど、彼女が「会えるよ! 絶対。だって、会えなかったら今までの青羽君の努力は無駄になるもん!」と意味ある行動に変えた。

 見舞いの帰りに紙飛行機を飛ばして母親は喜んでいたし、それは立派な努力だったのは本当だろう。

 それは母親が生きていて届いたから。

 なくなったいま、死んだ人に届くなんて科学的にありえない。

 なにより、彼女は嘘をついたことがないから、絶対亡くなった母親に会えるとするのは無茶がある。

 今回がはじめての嘘かもしれないし、嘘をついたことがないというのが嘘かもしれない。

 ありえないけど主人公は、嘘をつかないという彼女を信じた。

 なぜ白空さんは、主人公を信じさせる必要があったのか。

 おそらく、紙飛行機をおる主人公の、楽しそうで生き生きした顔があまりにすてきで、「そんな生き生きとした青羽君の顔を見るのが好きになっちゃってさ」と告白しているように、彼を好きになったから。

 だけど、好きになった彼の普段の顔は、つまらなそうで覇気もなく、死にそうな顔をしているのかもしれない。

 好きになった子を、すてきな表情でいさせるために、生き生きとした顔になる折り紙づくりの目的を、彼女自身が否定するわけにはいかなかったのだ。

 

 きっと主人公はこれから、彼女といるときは、楽しそうに生き生きとした顔をみせるようになっていくだろう。

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