開夏宣言
開夏宣言
作者 一縷 望
https://kakuyomu.jp/works/16816700428653724626
夏のなくなった世界に夏を取り戻した少年の話。
遠いような近い未来のファンタジー。
三人称の少年視点で書かれた文体……と思わせておいて、三人称の神・私視点で書かれている。
女性神話の中心軌道にそって書かれている。
かつて「古代、兵器が生まれる前の時代には、光が天から降り注ぎ、それはそれは暖かい『夏』という気候があった」話を聞き、夏を知りたい、いつか科学者になって夏を取り戻すんだと少年は思っていた。
だが人類は滅び、最後の仲間さえ死んでしまい、ついに世界には自分ひとりだけとなって荒れた街路に震えながら座り込んでいた。 自分の死亡時刻だけを確認しようと懈怠電話を取り出す。
「14:40」と無表情に映し出された時刻。
どうせ死ぬなら夏に死にたいと思い、自分にとっての夏はなにかを思い出しては、音楽フォルダをみて、「夏を取り戻すんだ!」幼い頃の自分の声を思い出す。
街の放送塔へ向かい、操作室にはいって電源を入れる。マイクに携帯電話を近づけ、いまはなき、夏の代表ソングが市街スピーカーから鳴り響く。
「なつを。ナツを、僕は夏を取り戻したよ‼」
少年は叫ぶ。
四分十九秒間、曲が流れ、少年は眠るように安らかになくなった。
彼は夏を取り戻したのである。
「分厚い雲に覆われた頭上からは、星はおろか太陽の光さえ届かない。遥か昔、『人間たちがおそろしい兵器によって巻き上げた塵』は、焼け爛ただれた空を鉛色に塗り潰した。以来、『夏』は博物館の展示物となり、恐竜の化石の横に並んだ」
巨大隕石落下なみの破壊力をもった兵器を使って、粉塵が巻き上がり、太陽光がさえぎられた結果、気温が低下、氷河期のような世界へとなってしまったのだろう。
残された人類は、わずかな食料を巡って争い、暖も飢えもしのげずに数を減らしていったのかもしれない。
「『夏』はジュースをぬるくすることも、『セミ』という生物の声が降り注いでいたことも、恋の神が宿っていたことも、空がことさら青かったことも。全て、曲たちから知ったことだ」と、もはや文献、資料からしかうかがい知ることができなくなっている。
『いつか、僕が科学者になって、夏を取り戻すんだ!』
生きるには希望が必要だ。
子供ならなおさら、純粋な願いを抱いてもおおかしくない。
そして父親も、少年の言葉を否定せずに優しく頭をなでている。
生きることで精一杯で、夏を取り戻す余裕もなかったとある。
もし夏を取り戻せたらなら、寒さもなくなり、植物も光合成ができ、飢えと寒さから開放される。
残された人類にとっては救いとなるだろう。
とはいえ、それをするだけの余力がないのは事実だろう。
粉塵を祓うには、空中で爆発させて吹き飛ばす方法も考えられるが、粉塵がどの高度にただよってるのかを知る必要がある。
そこまで打ち上げるロケットや、吹き飛ばすための火薬、それ以前に酸素量はどうなっているのだろう。
「昨日、最後の仲間さえも死んでしまった今日」とある。
家族ではないのだ。
家族はもはや亡くなってしまっていたのだろう。
この仲間とは、どういう仲間なのかしらん。
「この街の電力が尽きる前に、充電しておいて正解だった」とあるので、発電や充電ができる世界なのだ。
なので、兵器が生まれていまの世界になったのは、何百年前という昔ではなく、数十年前くらいの話かもしれない。
夏に包まれて死にたい思いから、自分にとっての夏はなにかを考え、夏の音楽を街に流す発想や展開がすごくいい。
なるほどねと納得できてしまう。
夏になると、夏の音楽を流すことはよくある。
季節というのは演出するものなので、なにかしらのイベントを催すのも、季節を楽しむ意味合いが強い。
なので、夏の音楽を流すという発想がしっくりくる。
街に音楽を流し、満足して少年は死んでいく。
問題は、「私は今、ここにもう一度宣言しておこう。彼は、夏を取り戻した!」最後に出てきた、私である。
誰?
少年は最後の一人となり、死んでいった。
彼の死に際を語り、たしかに夏を取り戻したと語る私は、一部始終をみていたことになる。
そんなもの、神様しかいない。
それとも、小さい子供の「どうして夏になると夏の音楽を流すんですか?」という素朴な質問に対して困った大人が、荒廃した世界の最後の生き残りだった少年の生き様のお話をして「夏を取り戻した彼の行動にならって、いまでは開夏宣言時には街中に音楽を流すようになったんだよ」と答えたのかもしれない。
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