帰宅RTA

帰宅RTA

作者 よぎぼお

https://kakuyomu.jp/works/16817139557687242635


 帰宅RTAする主人公は、迷子の少女を救うことで、別の帰宅RTAを達成した物語。


 いろんなリアルタイムアタックはあります。

 ゲームの最短クリアや早く仕事から帰りたいとか。

 そういう経験がなくとも、白線の上をはみ出さずに歩くなど、下校時に遊びながら帰ったことがある人ならば、共感が持てると思われる。


 主人公は男子学生、一人称俺で書かれた文体。自分語りで実況中継している。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 自分自身で決めた一日一回しか挑戦できない帰宅RTAをするべく、授業が終わると教室を出、廊下を競歩で進む。

 前川先生により呼び止められる危機を、身代わりとなった友人に助けられ、親指を立てる校門の警備員に見送られて、走り続けていく。信号の切り替わりを把握しながら突き進み、記録更新となる矢先、目の前で泣いてる少女に出くわす。

 このままでは記録更新達成できない。

 だが、迷わず少女に声をかけ、交番に連れていき迷子の少女を救う。当初の帰宅時間の更新はできなかったが、小さな天使を助けるミッションを成功できたと、満足して帰宅するのだった。


 プロットでみると、主人公はAという望みがあり実現していない。ある日、叶えるチャンスがきて、いろんなことが起きる。その中で思いもかけずAが別なものBに変わっていく。解決したのはBの実現だった。


 一つの言葉に、別の意味をもたせることでどんでん返しが描かれているところがきれい。


 教室を出る前の、書き出し部分がナレーション的で主人公自身、気分を盛り上げているのがわかる。

 前回は雨が降ってしまい、失敗したのがわかる。

「お天気アナウンサーの言うことを信じてしまったから問題だった」とあるので、傘持っていくのを忘れたのだろう。

 

 はやく帰ろうと毎日挑む主人公の姿は、小学生男子を彷彿させる。

 本作は年齢がわからないので、中学生かもしれないし、高校生かもしれない。しれないけれど、男子はいくつになっても、こういうところがあるのだろう。


 親友が犠牲になっている。

 ということは、親友も、主人公と同じ帰宅RTAをする仲間なのだ。

 一日一回しか挑めないチャンスをつぶしてまで、主人公を助けてくれたのだ。

 いかに二人が帰宅RTAに夢中になっているかが、うかがい知れる。

 競歩は通常の歩きにくらべてはやいので、前川先生でなくとも注意する。

 男子二十キロ競歩の世界記録は、鈴木雄介の一時間十六分三十六秒。

 平均時速は十五・七キロ。

 ママチャリを大人が普通にこいだときの時速が十四キロ前後。

 それを追い抜く速さで歩いているのだ。

 とはいえ、主人公は世界記録保持者ではない。

 中高生の競歩選手で、時速十三キロで歩いている。

 走った場合、

 五十メートル走を八秒で走る子なら時速二十二キロほどになる。

 人が歩く速度は、時速四キロから六キロなので、そんな速さで廊下を走れば注意されるのは当然だ。

 廊下を走ったらダメなのではなく、軽率な行動を取った結果、怪我をするなどトラブルを起こさせないのが目的なので、競歩だろうとはや歩きだろうとあぶないと思えば注意されるでしょう。


 最近の学校は警備員がいるのですね。

「警備員はふっとキャップをかぶり直して親指を立てた」とある。

 つまり、なにをしているのか知っているのだ。

 おそらく以前、声をかけられた主人公は警備員に説明したことがあるに違いない。

 このノリに大人の警備員が付き合ってくれるのは、主人公が小学生だからじゃないかしらん。

 百歩譲って、中学一年生の可能性も考えられる。


「信号の周期など把握しているに決まっているじゃないか」

 ひょっとしたら、市営バスにくっついて歩いてるのでhと邪推してしまう。さすがにそんなにはやくは走れないだろう。


 主人公の対応が早い。

 ゴール地点目前で、少女を見つける。

 帰宅RTAなのだから、ゴール地点は主人公の家に違いない。

 なので、近所に住んでいる少女ではない、と主人公にはわかったはず。

 無意識下では、迷子だと直感し、聞いたら迷子だったので、頭に入れている地図から交番の最短ルートを導いて連れて行くことにためらいがなかったのだろう。

 最終的に、『Rescue Tiny Angel』小さな天使を助けることができた。


 臨機応変の良さは、日頃から帰宅RTAをしてきたことで得た経験が生かされているに違いない。

 突発的な問題に直面したとき、いかにして回避し、あるいは別ルートを模索して対応に当たるかなど、つねに思考しているからこそ、可能だたのだろう。

 これまでにも主人公はいろいろな失敗スぉしてきていると思うけど、そのたびに「これは失敗ではなく、計算通り」と対処して生きているにちがいない。


 大人になると失われる、子供ならではの若さと対応力の良さを、読者にみせてくれている。

 



 

 

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