橙色の向日葵

橙色の向日葵

作者 八瀬蛍

https://kakuyomu.jp/works/16817139557189267546


 工真が友人の菊池千寿と最後に過ごした夏の物語。


 文章の書き方は目をつぶる。

 大事な人はなくさないようにしよう。

 代わりなどいなのだから。

 

 主人公は高校三年生の陸上部に所属している細貝工真、一人称僕で書かれた文体。自分語りで実況中継の文体。


 女性神話の中心軌道で書かれている。

 主人公の工真は、親友で最大の理解者である菊池千寿が余命ひと月であることを彼の父親から知らされ、陸上選手になりたい主人公は、大学からの声掛けのある夏の大会出場を逃せばスカウトの道は絶たれることをわかっていながら、友達の千寿を優先して休部届を出し、何度も見舞いに行く。

 千寿の買った向日葵を「枯らさないでよ! ね、お願い」と渡される主人公。

 小学校の卒業文集をもぢだし、「僕は将来、陸上の選手になってオリンピックに出たいです」主人公の将来の夢が書かれてあった。

 その後、千寿は眠り続け、彼はなくなる。

 もらった向日葵も枯れてしまい、主人公の夢も潰えてしまう。

 数十年もの失った世界が残された。


 どんでん返しを書こうと、書き方にこだわりを感じる。

 冒頭で電話をもらい、「あと一か月で世界が、滅亡する……」からはじまるところは、何がおきるのだろうと読者に思わせてくれる。

 日常から非日常、そして日常へと帰還する展開になるだろうと思って読み進めるも、父親は仕事に行き、友達の家に出かけ、空蝉をおみやげといってもってきては驚かせて、くだらない会話をして帰っていく。

 その後も、部活へ行き、また千寿の家へ行く。

 なにかの部活をしていて、今年が三年生のがわかってくる。

 向日葵を買っていて、「そうだ。花瓶の大きさを見誤っちゃって、入りきらなかったからどうしようかと思ってたんだ。これ、あげるよ」「枯らさないでよ! ね、お願い」といって渡すところで、もやっとした。

 入り切らなかったということは、茎が長いのだ。

 花をいけたことがある人ならわかるでしょうけど、長かったら切ればいい。なのに主人公にあげる。

 しかも、「枯らさないでよ! ね、お願い」と必死にお願いする。

 これが十二日。

 十一日後の二十三日は、小学校の卒業文集で主人公の将来の夢の作文をみる。

「僕は将来、陸上の選手になってオリンピックに出たいです」

 ここでももやっとする。

 なぜ千寿ではないのか。

 次の日から、千寿はもう寝てしまうのだ。

 あとで、向日葵の花言葉は「未来を見つめて」という意味があり、卒業文集の千寿のページは破られていたことがわかり、「彼の笑顔が僕や両親のためであったことを再確認」するのだ。

 つまり千寿は、主人公に夢を諦めてほしくなかったのだ。

 だけど、主人公は自分に会いに来る。

 向日葵を渡し、文集を見せて、自分のために生きろと伝えたのだ。

 でも、主人王は友達の千寿を選んだ。

「僕にとって千寿のいない世界なんて知らない」から、彼がいるから陸上選手になってオリンピックに出たいという夢が持てたのだ。

 

 千寿がなくなり、「多分あと数十年の毎日が僕には残されているのだ。滅亡したこの世界で」主人公は、夢も希望もない人生を送らねばならない。

 彼がいなければ、なんのためにはたらくのか、何のために食べるのか。心はそう願っても、身体は生きようとするので、結局食べてしまうし、自堕落な生活をおくることとなる。

 こうしてまた一人、若者が引きこもりになっていくのだろう。


 ではどうしたらよかったのか。

 千寿は、向日葵とか卒業文集とかまわりくどいものを使わず、ストレートに「大会に出てスカウトを勝ち取ってこい」といえばよかったのだ。

 本当に彼のことを思っているのなら、残りの命を全部使って、主人公を生かすことに使うだろう。

 残りがないとわかると、必死さが生まれるものだ。

 なのに、千寿にはそれが感じられない。

 ということは、本人は自分の余命は短いけれども、夏の終わりに死んでしまうことを知らなかったのだろう。

 親と友人だけが、余命宣告を聞いていたのだ。

 

 だからって医者に「のこり○カ月です」と言われてそのとおりになくなるかといったら違う。

 それから幾年も生きることもあるので、残り一カ月といわれて一カ月後になくなることはまずない。

 それでも本作のようにあるのならば、本人には告げるべきだと思った。

 文集で自分をページを破っているので、少なくとも自分の命は長くなく、夢もかなわないと思った。

 だから破ったはず。

 そのとき、ある程度、余命を聞いていると思われる。

 全く知らなかったわけではないと思うので、千寿はもっと早くから「大会に出て頑張って」といい続けなければいけなかった。

 主人公の頑張りが、ひょっとしたら千寿の病気を好転させたかもしれないから。

 なぜならば、「僕にとって千寿のいない世界なんて知らないもので、彼が終わる時が僕にとっても世界が終わる時だと思った」と主人公が思っていることを、千寿も思っていたとするなら、千寿の寿命は主人公の頑張り次第で伸びるかもしれないからだ。

 休部届を出してしまったから、余命宣告どおりになくなってしまったのかもしれない。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る