残り一秒間のエール

残り一秒間のエール

作者 恋狸

https://kakuyomu.jp/works/16817139556733409832


 頑張れが重荷だった昨年度の卓球全国大会優勝者の赤井選手は決勝前に純粋な応援をもらったおかげで、窮地を乗り越える物語。


 恋狸さんは昨年、たくさんの恋愛ものを書かれていたと印象に残っている。

 本作はベタな恋愛ではなく、ほのかな思いを感じさせながらも、青春のワンシーンを描いている。

 素敵な話である。

 

 主人公は高校最後の決勝に臨む去年の全国大会優勝の赤井選手、一人称僕で書かれた文体。自分語りの実況中継。試合中の心理描写、どんでん返しがある。


 女性神話の中心軌道で書かれている。

 頑張れが重荷で、呪詛のように縛る言葉のように感じるのを隠しながら、昨年行われた卓球の全国大会優勝の赤井選手は、高校最後の全国大会決勝戦に挑もうとしていた。

 汗をふこうとしたとき、昨年の主人公のプレイに感動した他校の女子生徒が「が、頑張ってください!」と赤いタオルをもってきた。

 決勝戦の相手は、昨年決勝で戦った相手だった。

 相手に誘われるように短い横回転のサーブを打ったことで逆転され、あと一点で敗北が確定してしまう。

 負けたくない一念でラリーを続ける相手が、浮いてしまった球を打ち返す。

 これで負けてしまう。

 今すぐ諦めてしまえばいい。

 頑張れなんて重荷でしかなかった。

 弱音が込み上がったとき、試合前に赤いタオルをもってきた女子生徒のエールを思い出す。

 純粋な応援が主人公を鼓舞し、弱い心払拭して打ち返す。

 主人公は応援を力に変え、残り二点もこの先も負ける気がしなかった。


 漠然と「頑張れ」という言葉は重荷になる。

 何に対して頑張るのかが大事なのだ。

 投げ捨てるような応援は応援ではない。でも、声援は短い言葉に集約されるものだから、どうしても「頑張れ」と言葉を投げるような言い方になってしまう。

 何に対して、どう頑張るのかは前提条件を決めるまでもなく暗黙の了解なところがある。だからくどくど言わないのもわかる。

 わかるけれど、試合に集中したいので外野から余計な言葉をかけられるとパフォーマンスが落ちる選手もいるに違いない。

 主人公の赤井選手に力を与えたのは、一人の女子生徒の応援。

 彼女だったから力を与えることが出来たのだろう。

 なぜなら、汗を吹こうとタオルを求めていた時に差し出されて、そのおまけみたいに「頑張って下さい」と言葉を添えたから、彼の心にスッと入っていけたのだ。

 声掛けに大切なのは、誰がするのかもそうだけれども、タイミングが一番重要。

 同じ高校の顔なじみからだと、あれやこれやとくどくど話すかもしれない。それだと鬱陶しくなる。男子部員や後輩からだと、自分はこれが最後だけど後輩は来年があるし、先輩としていいところを見せないといけないとか、余計なことを考えてしまうかもしれない。

 他校の女子生徒だったから、よかったのだろう。

 勝利者インタビューがあったら、「あのときエールをもらったから勝てました」と答えるかもしれない。


 人生を一変させてしまう応援、言葉は存在する。

 だからこそ、普段つかう何気ない言葉を気をつけたい。

 他人に掛ける言葉はすべてエールなのだから。

 たった一秒でどん底へと突き落とすことだってある。

 どうせ突き動かすなら、上へ上へと押し上げてあげたい。

 


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