マッチングアプリで元妻とマッチングした件

マッチングアプリで元妻とマッチングした件

作者 ゴローさん

https://kakuyomu.jp/works/16816927862836791478


 三年前離婚した吉田博人は寂しさからマッチングアプリを始め、知り合った女性に会うと元妻であり、互いに話して夫婦に戻った話。


 文章の書き方には目をつむる。

 読みやすく無駄がないので、内容がストレートに読み手に入ってくる。素直に凄いなと思う。

 読後感がいい。


 主人公は会社員の吉田博人、一人称俺で書かれた文体。描写は少なく、前半は自分語りで後半はほぼ会話劇。最低限の状況描写、説明されている。


 女性神話の中心軌道で書かれている。

 主人公の吉田博人は大学生のときに知り合って五年間付き合った女性と結婚。子供も生まれ幸せだった。仕事を頑張るうちに忙しくなって離婚されたのが三年前。

 独身の同僚の勧めもあって、寂しさからマッチングアプリを利用する。ミクという女性と知り合い、仲良くなり実際に会うことになる。

 予約したホテルの店で食事をしながら、これまでの自分を語り、「今日来るときに、妻への未練を断ち切ったつもりだったんだけど、断ち切れてなかったみたいだね」と告げる。妻は、「ママ友がね、家族の時間を取れない夫なんて、ろくでもない人ばっかり」といわれて「何も考えられなくなって……って、他の人のせいにするなんて最低だよね」と離婚した理由を告げる。

 主人公はそんなことないといい、「よし! 好きだ! 結婚しよう!」「もう、何も考えずに、離婚したんなら、何も考えずに再婚しよう!」とよりを戻す。

 一カ月後の日記には「今日の弁当は美味しかった!」と綴られていた。


 高校生の作品を読んでいてたまに思うのは、「本当に高校生? この作者さんは人生何回目かしらん」と。

 書き出しは児童文庫によくある「ぼくの名前は~」ではじまっていて、最近の小中学生は児童文庫をよく読んでいるからこういう書き方ではじめるのだろう。ショートと短い話なので、小出しにせず読者にわかりやすく早めに説明する書き方は、本作には適していると思う。


 大学時に知り合って付き合い、結婚して子供が生まれ、仕事が忙しくなって、家族を顧みる暇もなくなって妻に離婚届を突きつけられる。しかも、ママ友に「家族の時間を取れない夫なんて、ろくでもない」とくり返し言われて、そうなのかなと思ってあまり考えずに行動してしまうなど、ある意味テンプレなんだけれども、上手く行かなくなっていくパターンとしてのテンプレであり、実際によくあるので現実味を感じてしまう。

 こういった作品を見聞きして得たのか、あるいは身近な体験者からの話を聞いて知っているのかわからないけれども、本作品にとって大事な所がさらりとよく書けている。


 まだ結婚していない同僚に「一緒にマッチングアプリをやってみよう」と声をかけられ、寂しいからしてしまうなど現代の流行りや風潮も取り入れられている。


「近くに住んでいる人を探すのはもちろん、なんとなく自分と同じバツイチが良いな、と思った。あとから考えたら、これが、運命を変えたのだろう」というところは、後半のきっかけにつながる重要なところで、わかりやすく印象的に書いてある。

 お話の書き方がわかっている。


「待ち合わせ場所は、近くの大きなホテルになった」とある。

 なった、ということは、主人公が決めたのではなく、お互いにやり取りして、相手(元妻)が場所を指定したのかもしれない。

 ファミリーレストランや居酒屋風の店舗などではなく、おしゃれなところを選ぶのは、仕事ばかりしてきた主人公では難しいと思われる。

「とりあえず、店、予約しちゃってるから、いこっか」

 でも予約は主人公がしている。このへんは、彼がエスコートしている。良いポイントです。

 あとは会話なので、どんな食事だったのか、どんな店なのかは書かれていない。書く必要がないからだ。大事なのは、二人の会話と内容だから。

 余計なものは書かないという、メリハリができている。


 こんな簡単に寄りを戻せるか――その疑問は沸かない。

 なぜなら、元妻は他人の意見に流されやすい人として書かれているから。ママ友に「もう別れるしかないって言われて……もう何も考えられなくなって。他の人のせいにするなんて最低だよね」とあるように、影響されやすい。

 女性間の同調圧力に押し切られた形で離婚した。

 だから、主人公が「そんなことない!」「よし! 好きだ! 結婚しよう!」「もう、何も考えずに、離婚したんなら、何も考えずに再婚しよう!」という言葉に再婚できる。

 この順番もいい。

 論理的にまず否定し、つぎに信用を得るために、「よし!」と肯定、「好きだ! 結婚しよう」と手順を踏み、「もう、何も考えずに、離婚したんなら、何も考えずに再婚しよう!」と感情に訴える。最後に大事なポイント「何も考えずに再婚しよう!」と強い言葉で締めくくられている。

 この順番が大切である。

 だから最後、一カ月後の日記に「今日の弁当は美味しかった!」と書けるのだ。

 再婚して、また一緒に暮らすようになって落ち着いたのが一カ月後くらいなのだろう。この辺りも現実味を感じる。


 雨降って地固まるみたいな、そんな話でした。


 


  

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