真っ赤な青春

真っ赤な青春

作者 高田 桜司

https://kakuyomu.jp/works/16817139556066052619


 同じクラスの隣の子から告白されるもトラックに引かれて亡くなり、思いを告げられず卒業式を迎えた主人公は気持ちを伝えるために死を選ぶ物語。


 よく考えて書かれた作品。

 作り方がうまい。

 性別をわかりにくくしているのは、読者を作品に引き込ませる工夫と思われる。

 加えて、恋愛物の流れで描きながらこの二人はどうなるんだろうと思わせておいて、実は……というどんでん返しもある。

 読後感は悲しく重いかしらん。

 

 主人公は高校生、一人称はない、もしくは自分で書かれた文体。自分語りで実況中継、独白めいた回想と現在の卒業を迎える。


 女性神話の中心軌道で書かれている。

 高校入学一目惚れした彼女は主人公に告白した後、トラックに引かれて亡くなったことを胸に秘めつつ、彼女に「あなたのことが好きです」と伝えたい思いを抱えて卒業式の日を迎える。

 舞い散る桜をみることで、高校入学時に彼女と出会い、一目ボレをした自分を思い出す。

 彼女が好きなものを好きになりながらも仲良く過ごしていくも、クラスメイトの「二人は付き合っているのか」と聞かれて「そんなわけないだろ」といってしまい、それからギクシャクしていく。

 彼女から「放課後に体育館裏で待っています」と手紙をもらい行くと、「あなたのことが好きです」と告白される。「――だから付き合って……って急に言われても困るよね…………ごめん。明日まで……考えといて」といって先に帰った彼女は、帰宅途中に居眠り運転のトラックに轢かれて死んでしまう。

 卒業式を迎えた主人公は、彼女への思いをこのままにしたくなくて、教卓の上に置いてあったカッターナイフを見て笑うのだった。


 また、恋愛ものの書き方で書かれている。

 出会い、深め合い、不安やトラブル、別れ、結末の流れで展開する。結末はハッピーかアンハッピー、死別、卒業。本作は死別に該当する。


 書き出しは「『あなたのことが好きです』君にそう言えたならどれだけ幸福だろうか」ではじまっているので、そうではないんだなとわかる。片思いなのだ。

 卒業式の場面から回想が始まり、一目惚れだったとあるので、読者は最後に告白する話なのかな、と期待をもたせて読み進めていく。

 前半進むも、付き合っていないと口にしてから関係性が崩れてしまう。でも、彼女から告白を受けるという展開は恋愛ものの書き方。

 それでいて、事故でなくなってしまい卒業式を迎えて誰もいない教室で回想していると、冒頭につながっていく。

 

 一人称ながら、意図的に僕や俺などをつかわずに書かれている。

 なんでそんな書き方をするんだろうと思ったけれども、まさに読者に主人公と相手の子の関係に興味をもたせて読み進めていく工夫だとおもう。

 読み進めていけば、その辺りがはっきりするのではと、一種の謎解き要素も含んでいる。

 なのだけれども、人物描写がないので、君と呼ばれる相手の性別もわからない。

 主人公の性別も相手の性別もわからないように書かれてあるのは、読み手が自由に想像しやすくするためかもしれない。つまり、男女の恋愛ではなく女男の恋愛、あるいは同性の恋愛としても読めるようにあえてしたのでは、と思えてくる。

 音楽の趣味や餡の好みで性別を推し量るのはむずかしい。

 それでも相手が彼女で、主人公は男子だと推測できるのは、相手がラブコメマンガが好きなところかもしれない。

 男子だって好きな子がいるじゃないかといわれると、そうなんだけれども、どちらかといえば男子よりも女子が好むジャンルである。

 そのあとに、青が好きときている。

 女の子がブルー系が好きな傾向にあるので、合致する。

 さらに、二人は付き合っているのかときかれたとき「そんなわけないだろ」という口調で主人公が答えているから、相手は女子で主人公は男子だと思われる。

 女子だってそういう言葉を使う子がいる、といえなくもない。

 が、主人公が男だった場合、そんな乱暴な言い方をされてから手紙で呼び出して告白をするだろうかと考えると、無理な気がする。

 姉や妹がいる子なら可能性はあるけど、そのへんのことはなにもわからないので、断定しようがない。

 ただラストで、主人公が窓から地上をみたとき、桜が舞い散る中を「二人の男女が手を繋いで歩いていた。楽しそうに笑う、恥ずかしそうに顔を隠す。そんな初々しいカップルから目を離し――」と書かれている。

 仮に主人公と相手が同性だった場合、ここで見るのは同性の二人になるはず。二人の男女としているので、主人公が男子で亡くなった子が女子だろう。


 問題は、最後の一文「教卓の上に置いてあったカッターナイフを見て笑った」だろう。

 あれやこれやと頭が勝手に考えたあと、

「永遠にこのままなのだろうか。君へのこの気持ちを殺したまま――」

 と思ったあとでの行動なので、主人公は自分の気持ちを死んであの世にいる彼女に届けるために、カッターナイフを使って自死を図るという流れなのだろう。


 読み終えてタイトルを見ると、「真っ赤な青春」とある。

 真っ赤な嘘と彼女の死、自分がナイフで自死して鮮血が吹き出させようとする青春を表しているかのように思える。

 そもそも、素直になれずウソをついたことで関係が崩れてしまったことが発端にある。なので、真っ赤な嘘と青春をかけたのかしらん。


 気になったのは、「そして今日、桜舞い散る日に、その数字は人生で三度目のリセットを向かえようとしていた」というところ。

 これはどういう意味なのだろう。


 小中高校と迎える卒業式を数えて三度目になるところから、人生のリセットという表現にしたのかしらん。

 それとも言葉どおり、主人公はこれまでにも人生をリセットして、やり直しをくりかえしているファンタジーものかもしれない。

 今回も彼女は死んでしまった。

 死ぬことでタイムリープできる主人公。

 みたび過去へ飛び、人生をやり直すのかもしれない。

 次こそは救ってみせる、みたいな……。


 純文学と青春と書いてあるので、きっとそういう話ではないのだろう。

 

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