【短編】幼馴染からの本命チョコ、受け取ってくれますか?

【短編】幼馴染からの本命チョコ、受け取ってくれますか?

作者 スギ

https://kakuyomu.jp/works/16816927860750405482


 クラスの男子達でチョコの数勝負をしていた赤村拓也は一個も貰えず帰宅するも幼馴染の宮崎夕香から本命チョコをもらい、恋人となった彼女からキスされる話。


 誤字脱字等があっても気にしない。


 本作は読みやすい。

 書き方が上手く、書き慣れている感じもある。

 ショートショートの文量にまとめるために、必要最低限の描写をし、印象に残る書き方をしつつ、会話で二人の関係もわかりやすく把握できる。

 

 主人公は学生の赤村拓也、一人称俺で書かれた文体。自分語りで実況中継に会話のやり取りが多い。必要最小限な状況の描写が書き込まれている。


 女性神話の中心軌道で書かれている。

 主人公は、数週間前にクラスの男子達が企画した『女子からチョコをもらった数勝負』に参加し、勝者には尊敬と名誉が、敗者には哀れみと非モテ王の称号が与えられる勝負に挑むべく、プリント運びから落とし物捜索まで様々な雑用を引き受け、色んな女子に媚びを売りまくるも、一個ももらえず帰宅してベッドで号泣していた。

 そんな主人公の部屋に幼馴染の宮崎夕香が現れ、チョコを貰えなかった主人公を慰める。

 数週間女子に媚を売ってきたのにチョコを貰えなかったことを説明し、彼女は主人公の家に数週間前から訪ねてきてたのにいつも留守で寂しかったと吐露する。

 お詫びが欲しいという彼女に、できることならなんだってすると答えると、「じゃあさ、このチョコ受け取ってくれる?」と、本命チョコを差し出される。しかも義理ではなく本命だという。

 受け取る主人公。同時にチョコが一つ貰えた。

 クラスの男子達でチョコの数を競っていたこと告げると、負けちゃったねといわれる。でも、「可愛いしか無い超絶美少女な幼馴染から本命チョコ貰って彼女が出来たんだ。数では負けたかもしれないけど、こっちのが幸せだ」と答える主人公。

 彼女の好きが溢れてキスをされる。

「ねぇ、キスも合わせたらもっと勝ちだと思わないない?」 


 読みやすい。

 まず、サブタイトルに「2月14日は戦場の日」とあり、書き出しが「本日、2月14日は戦争の日である」とある。

 今年は、ロシアのウクライナ侵略があるせいか、いつも以上に戦争という言葉に反応してしまう。なんだろうと強い引き込みに感じられる。

 なので、最初のつかみ、書き出しとしては成功している。

 読み進めると、バレンタインのチョコ数勝負のことで、「勝者には尊敬と名誉が、敗者には哀れみと非モテ王の称号が与えられるこの勝負、男のプライドにかけて絶対に負けたくない!」と勝負内容が説明されている。

 主人公は、数週間前から女子に媚びを売りまくる。

 本人は「戦う前に勝負を決めている」と思っているけれど、一月の終わりから急に親切心を振りまいても遅い。

 媚びを売ったということは、それまでは女子に対して親切ではなかったと語っているようなもの。この時点で主人公はマイナスの状態。急に優しくしても、いままでのちょこっとチャラになるくらい。

 まさに彼の言葉を借りるなら、戦う前に勝負を決まっていたのだ。

 だから、貰えないのは自明の理。


 本作は、会話文が多い。

 おかげで、主人公と幼馴染の関係がセリフでわかる。

 描写もあるけれども、ショートショートの短い文量のなかでまとめるため、最低限の描写で書かれている。


「そりゃあ居るよ。幼馴染だもん。祐也の部屋でゴロゴロしながら漫画読んだりゲームしたりするのが私の仕事」

「随分楽な仕事だな?」

「そんなことないよー? チョコ貰えなかっただけで落ち込んで号泣する男の子を慰めたりしないといけないし」

 ここのやり取りが良い。

 普段の二人の関係が浮かんでくるようだ。


 主人公は幼馴染に「慰めてますよーアピールなのか頭を撫でてくる夕香。柔らかい手が髪を通じて伝わってきてくすぐったい」となったから、主人公の心の殻を破れるようになったのだ。

 このあと、チョコが貰えなかったことや男子たちで競っていたこと、女子に媚びを売っていたことなど、つぎつぎ明かされていく。

 

 幼馴染の宮崎夕香の容姿は「アイドル顔負けの美人」くらいしかない。

 けれども、彼女の行動や仕草が会話の合間に挿入されている。

 しかも書き方が、説明と感情のセットにしているから、読者に伝わりやすい。


「慰めてますよーアピールなのか頭を撫でてくる夕香」

「何故か少しさっきより元気になり、とびっきり笑顔になる」

 前半が説明。

「柔らかい手が髪を通じて伝わってきてくすぐったい」

「その仕草が可愛いくてついドキッとしてしまう」

 後半が主人公の感情。


 似たところでは、はじめのチョコの数を競っているくだりで、

「勝者には尊敬と名誉が、敗者には哀れみと非モテ王の称号が与えられる」の前半で勝敗が説明され、

「この勝負、男のプライドにかけて絶対に負けたくない!」

 後半は主人公の感情、意気込みが書かれている。


 説明と感情のセットは印象に残りやすく、読者に伝わりやすい。

 なので、他のところの「放課後、涙を堪えながら帰宅した俺はベッドに飛び込び号泣する」「気が付くと幼馴染の宮崎夕香みやざきゆかがベッドの前に立っていた」「先程までの満面の笑みを消し、口をちょこんっと尖らす夕香」「夕香はそう言うとポケットからビニールとリボンで梱包されたチョコを取り出し渡してきた」「そう言いながら夕香が顔を近づけてきて、目の前に夕香の顔が来た瞬間、唇から柔らかい感触が伝わって来た」は状況説明なのだ。

 だから、書き方が上手いとおもう。


 女子が配っていたチョコが貰えず、「なぜか毎回俺が配られる番になるとチョコ無くなったんだよな……」とぼやいている。

 ひょっとすると女子の間で、「宮崎夕香さんは赤村拓也が好きだから、あいつにはあげなくていい」と情報共有されていたから貰えなかったのでは、と邪推する。

 そもそも顔も普通で何の取り柄もなく、チョコを貰うために数週間前から媚びを売り始めた主人公だったのだから、多くの女子は眼中になかっただろう。

 普段の行いが大事であって、イベント前に急に優しくしてもね……。


 これからも二人仲良くお幸せに、と願うばかりである。


 

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