29日目 タロットさんは主張が強い
世の中には人と触れ合ううちに心を持ったモノというのは実はたくさんいて、『もちぬし』は気が付いていないかもしれないが、別に大切にされたとかそうでなかったとかあんまりそういうことには関係なく、ふと心に目覚めてしまったモノたちが世の中にはあふれている。
そのひとつに、タロットさんがいる。
タロットさん、つまり、タロットカードの付喪神というか集合的無意識というか。(俺たちも俺たちを完全には定義できていないのだ)
タロットさんは俺みたいに『もちぬし』の代わりに日記を書くような奴じゃないし、そう饒舌な奴でもないが、俺とはまた違って主張が強いのである。
その日も『もちぬし』がタロットさんを手に取って、何やら占おうとしていた。
『もちぬし』の表情は真剣そのもので、その占いの結果次第では討ち入りでもしそうな悲壮ささえ感じられた。もどかしそうにタロットさんをシャッフルする手に力が入っているのがわかる。
しばらくカシャカシャと紙が当たる音が続いた後、突然、一枚のカードが『もちぬし』の手から飛び出した。『もちぬし』はそれを何気なく手に取ってカードをめくると、ふ、と力を抜いた。
タロットさんはよくそういうことをする。占いの結果が出るより先に、言葉が届かない『もちぬし』にメッセージを伝えようとする。それは厳密には占いの儀式に則らないささやかなメッセージだけど、タロットさんは自分の領分を超えてメッセージを伝えたくなってしまうのだ。
『もちぬし』は飛び出したカードを束に戻し、何事もなかったように占いを始めた。
張り詰めた空気は少しだけ和らいでいた。
そんな風に『もちぬし』に影響を与えたタロットさんに嫉妬を感じながら、どんなカードを見せたのか、後で聞いてみるかな。と、俺は思う。
クウソウ日記 勿体あれと俺は言った。 N・I・キー @n-i-Key
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