23日目 おままごと①

 今日は『もちぬし』と焼肉を食べに行った。

 『もちぬし』と意思の疎通をするようになってから大分時間が経つものの、『もちぬし』が俺をご飯に誘うなんて非常に珍しいので、俺は面食らってしまった。なんせ日記帳はご飯を食べない。

 『もちぬし』は二人掛けの小さなテーブルに着くなり、俺を対面の机の上に置いた。紙エプロンをつけ、店員さんを呼び止めてビールと適当に注文を頼む。当然と言えば当然だが、俺の分の小皿やエプロンは注意されていなかった。当たり前だ。日記帳は焼肉を食べない。代わりにというか、油がはねて日記帳に染みがつかないように、出来るだけ鉄板から離れたところに俺を置き『もちぬし』はハンカチを上に敷いた。そうまでするならテーブルの上に俺を置かなければいいのにと思うが、俺がそう言うと、「二人で食べるなら対面にいてほしいじゃん」と笑う。そういうものか? と思うが、そういうものなのかもしれない。生憎俺は日記帳と焼肉を食べるときの常識を知らない。

「キーは何を食べる?」

『もちぬし』の問いかけに、俺は言葉を詰まらせた。何を頼めばいいのかわからなかったからだ。もちろん、タンとかミノとかハツとか、焼肉には種類があるのは知っている。味はわからないが。しかし、何を頼んだって食べられないには違いないのだ。どちらにしろ最終的には『もちぬし』が食べることになる。

「焼肉に来るのははじめてなんだ。『もちぬし』のおすすめを教えてくれないか?」

「わかった」

 俺の躊躇に気づかないふりをして、『もちぬし』が店員を呼び止めておひとり様セットを注文する。それにプラスして、タンを一皿。俺の分のつもりなのだろう。気にしなくていいのにと思うが、儀式みたいなものなのかもしれない。

「タンが好きなんだ。キーにも食べてみてほしい」

「楽しみだ」

 自分たちのしていることの滑稽さには気づいているが、止める気にはならなかった。俺とご飯を食べに行くと『もちぬし』が言い出した時からわかっていた。

『もちぬし』は俺を物ではなく、対等な何かとして扱ってくれようとしている。

 俺はそれに報いたいと思ったのだ。



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