21日目 幸と勿体あれ

『もちぬし』が2021年と書かれた手帳を投げ捨てるようにごみ箱に放った。俺は(つまり日記帳の付喪神であるところのこの俺、N・I・キー)は、その去年の手帳は『もちぬし』にほとんど触れられることなく、ページのほとんどが真っ白なままであることを知っていた。2021年のカレンダーも、東京の地下鉄の路線図も、大安も一粒万倍日のメモも『もちぬし』は活用することはなかった。俺の声など『もちぬし』に届くはずもなく、ドサ、とごみ箱から重い音が聞こえてきた。『もちぬし』はもう去年の手帳のやつを振り返ったりはしない。でも、俺は知っているのだ。『もちぬし』が一度だけ、そいつに「デート」と書き込んだことがあるのを。ああ、「もちぬし」よ。勿体あれ!

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