17日目 笑う門には福来る

 今日は笑う練習をした。

 ウソ日記とは言えこんなことを書くと『もちぬし』は俺のことを病んでいるのではないかとか、あるいは俺がモノだから感情を持たないのではないかと考えるかもしれない。

 そういうことじゃないんだ。

 そういうことではないんだよ。

 俺だって、例えば嬉しいとか悲しいとかはわかる。

『もちぬし』が書く日記が思いのほか予想外で驚くことだってあるし、楽しい気持ちになることだってある。

『もちぬし』と一緒にやるせない気持ちになったり、時に起こったりすることだってあるんだ。

 ただ、どうしても強い感情となると、『もちぬし』の日記を読んだり、自分で空想するだけでは実感しづらいんだよな。

 例えばさ、大口を開けて笑うなんて、日記である俺にはなかなか経験できることじゃない。でも、『もちぬし』の代わりにウソでも日記を書こうと思うなら、爆笑だって号泣だって知っていた方がいいと思うんだ。

 だから、とりあえず形だけでも真似しやすそうな爆笑を今日は練習してみた。

 日記ってやつの特性なのかな、毎日じゃなくても、一日一日、意味があるかわからないことをちょっとずつ積み重ねていくのは好きなんだよ。

「あっはっはっはっは」

 と声に出してみる。俺に表情ってやつがあるのかはわからないから、そこは想像だ。このやり方であっているのかわからないけれど、そもそも日記は爆笑しない。正解なんてどこにもないのだから試行錯誤するしかない。

「おほほほほほ!」

 なんて、やり方を変えてみる。最近じゃよく聞く笑い声だ。

 だけどこれはしっくりこない。

「ヒィー」とかすれた笑い声を出してみる。

 ……これは、なんか負担が大きそうだ。

 どれもいまいちしっくりこないのに、そうやって笑い声の真似事をしていると、不思議と何か楽しい気持ちになってくる。

 次第に、この笑いが爆笑とは言えなくても、偽物の笑いじゃないような気がしてくる。

 自分が人間、『もちぬし』たちに、少し似てくるような気がしてくる。

 そう思えてしまったら、なんだかもう爆笑という気持ちにはなれなくて、それでも、だからこそ、今日は心ゆくまで笑う練習をした。

 

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