14日目 究極と至高の一日(2)

 日記と言ったら、その日一日起きたことを記すのが普通の使い方なのだと思う。日々を記す、まあつまりその名の通りなわけだけれど、世の中には変わった使い方をする『もちぬし』がいるものだ。

 その『もちぬし』は、一日の始まりにその日やるべきことの日記を書いた。

 広義のウソ日記だな。

 もうそこまで行くと日記というよりは単にタスクを書きだしているだけなのだけれど、『もちぬし』にはそれでよかったらしい、あえて日記に書きだすことに意味があるのだそうだ。単にタスクを書きだしたのではなく、その日起きたことを記す日記に書いちゃったからには、その通りに過ごさないと気が済まないといったおまじないのような。

 その日、『もちぬし』は朝起きるといつものように今日やるべきことを俺に書きだした。

「メールの返信を行うこと」

「〇〇さんと打ち合わせ」

「A社、プレゼン用資料の最終確認、プレゼン」

 一通り仕事について書きだした後、『もちぬし』は自分の書いたタスクを満足そうにうなずいた。俺としては、なんだか無味乾燥な一日だなと思ってしまうものの、『もちぬし』にはそれでいいらしい。

 日記は自由だ。何を書いたってどう書いたっていい。だから、俺の感想はまあどうでもいいのだ。

 いつか読み返した時に、この日記に『もちぬし』はどういう感想を持つのか、俺は今から少し楽しみである。

 ところが、その日『もちぬし』は日記を閉じる前に少し迷う素振りを見せた。

 閉じようとした日記の今日のページをもう一度開き、意を決してペンを走らせる。

「〇〇にプレゼントを買う」

『もちぬし』は気恥ずかしそうに自身が書いたその文字を見直し、その自分の表示に気づいているのかいないのか、照れくさそうに微かに笑った。

 いつか、見直した時に『もちぬし』がどんな顔をするのか、今から楽しみだと俺は言ったが、それを見て、俺は気が変わったのだ。

 今、自分が書いたその日記にそんな顔ができるなら、未来なんてどうでもいいのだ。日記帳の俺としては。

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