12日目 新砦の小人さん

 ある騎士団の団員さんが書いた日記を見て、俺、つまりN・I・キーは自分の頬が緩むのを感じた。まあ、あくまで人間に例えるならそういうような気持になったってことだ。

 日記の内容はこうだ。

「今日も備品庫に小人さんが現れた。ありがたいことだ。団員たちからも小人さんには感謝をしてもしたりないという声を聞く。俺がやってたことも無駄じゃなかった。小人さんにも何かお返しが出来たらいいのだが」

『もちぬし』たちは本当に面白い。

 モノはその出自から、人間には比較的好意的なことが多いけど、俺はこの砦の『もちぬし』たちをことさら好いていた。

 理由を聞けば他のモノだって同じことを思うはずだ。

 

 大切に使われた古い建物には小人さんが現れる。

 その国にはそんな伝承が存在していた。

 小人さんは、その建物に住む精霊で、そこに住む人たちのために、夜な夜な、誰もいない時間に現れては建物を掃除したり、備品の手入れをしてくれるのだという。地球にもそういう伝承があったよな。職人が寝ている間に仕上げをしてくれる妖精さん。人が見ている間は現れないのも一緒だ。

 小人さんは、存在すると認識されたところに好んで現れるという。

 だからというか、その国には面白い風習があった。

 新しく建物を作ったときは、小人さんが現れやすいように、誰かが小人さんの代わりを務めるのだ。小人さん役は公表されない。そして、誰かに任命されるわけでもない。ただ自発的に、誰も見ていないところでひっそりと建物の掃除をしたり備品の手入れをしたりして、そうして翌日、「小人さんが現れた」と、さも小人さんが本当に現れたかのように喧伝してまわる。他の人間もそれがわかっているから、「それはすごい」と笑うのだ。誰も「ありえない」なんて馬鹿にしたりしない。

 そうしているうちに、小人さんが現れることは当たり前になり、そのうち、小人役がそうしなくても、建物が掃除されたり、備品が手入れされていたりすることが増えてくる。そう信じられていた。

 その砦は、一昨年に新築されたばかりだった。


「聞いたか? 昨日も小人さん現れたらしいぞ」

「ああ、聞いた聞いた。まだ1年と少ししか経ってないのに、小人さんも定着してきたな」

「すげーよ。ここだけの話さ、俺小人役やってたんだ。でも昨日はなんにもやってない。1回だけじゃないぜ。もう本物の小人さんが来たんだ!」

『もちぬし』がそう言って笑うと、それを聞いていた同僚が引き攣った笑みを浮かべ、「お、おう。よかった」とうなずいた。

 俺は知っている、たまたまその日、何を思ったのかその同僚は小人さんをしていたことを。

 その同僚も小人さんをしていない時は、たまたま他の誰かが小人さんをしていたことも。

 小人さんという風習そのものが、そういった誰かのたまたま積み重なった善意で生まれたものだということを。


 でも、馬鹿にしたもんじゃない。

 俺みたいなのがいるんだから。

 いつか、その世界に本物の小人さんが生まれて、話を聞かせてもらえる日が来ることを、俺は楽しみにしているんだ。

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