7日目 N・I・キーの馬鹿げた、でも切実な役割。
『もちぬし』が日記を書いた。
内容はこうだ。
今日は雨だったので図書館で勉強をした。
いつもより捗ったので、知力が余分に上がった気がする。
なんじゃそりゃ、と思いつつ『もちぬし』が自発的に日記を書くのを嬉しく思う。知力ってなんだと思わなくもないが、まあ、『もちぬし』独特のセンスなのだろうとそこは考えないようにする。
あとで読みなおしたときに、雨の日に図書館で勉強をすると効率がいいなどと思い出すのだろうか。まあ、それはそれでなしな日記の使い方ではない。
日記を書いたらすぐに『もちぬし』は外へ飛び出していった。まだ夜更けというわけでもないので、外を出歩くのに遅い時間というわけでもない。日記帳の俺が生活の乱れについて口を出すのもおかしな話である。
まあ、でも。
変わった『もちぬし』だなと思う。
普通日記って、夜寝る前に、一日が終わった後に書くものじゃないか?
しかし、『もちぬし』は雑貨屋で珍しいものを買っては戻ってきてそれを日記に記し、ちょっと仲のいい異性と出会う度にそれを日記に記すのである。
一日に何度も何度も。
こんな日記の使い方をする『もちぬし』はあまりいない。
『もちぬし』は日記を一体何だと思っているのだろう?
そういえば以前にもこんな『もちぬし』がいた。
パンデミックにより動く死体がはびこるようになった洋館で、俺はその『もちぬし』と出会った。
その洋館には、日記を記すための道具がタイプライターとインクリボンしかなかった。
命をかけた脱出劇の合間、彼はしきりに今の自分の状況を、タイプライターを使って記録として残そうとした。
それはわかる。
だが、あれは度が過ぎていた。
一日に何度も、何か新しい発見があるたび、なにか新しいものを見つけるたびに『もちぬし』はそれを記録した。
記録しないと、自分の生きた証が世界に証明されないとでも思っているかのようだった。
あんなに記録に必死になっている『もちぬし』には、なかなかなお目にかかったことはない。
喫茶店の屋根裏で、なにやら一生懸命机に向かっている『もちぬし』を見て思う。
この『もちぬし』も、世界を変えるような冒険譚に関わっているのだろうか?
あんなに何度も日記を書いているのだから、日記帳たる俺も、その役に立てていればいいのだが。
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