3日目 日記帳は同席しない。
嘘とはいえ毎日日記を書くのって難しいよな。
日記の付喪神(らしいもの)といっても、俺だって日記を継続する難しさは知ってるんだよ。だから正直なところ、この嘘日記だって毎日ってわけじゃなくて、まあちょっとずつ書いていけばいいかなと思っていたんだ。ほら、ホラーゲームに出てくる日記のやつだって毎日の手記は残ってないだろ? かゆ、うまって書くためだけに日記を書くやつですら、毎日は日記を書かない。だろ?
なのに、もう3日連続で日記を書いている。嘘だけど。嘘なのに。
勿体あれ!
今日はある『もちぬし』と一緒に飯を食べに行った。
つまり今これを読んでいる『もちぬし』、きみと行ったということでどうだろうか。いいだろうか。
日記がご飯を食べるのかって? 勿論食べない。
嘘は素晴らしい。
まあ、あれだ、重要なのは「食べにいった」というところではなくて、「一緒に」というところなんだな。一緒に行くって言ったって、俺は日記帳に過ぎないわけだから、二人席の向かい側に置かれてるわけじゃない。そこは普通人間が座る。日記帳に席はない。俺はといえばなんとなく鞄に入ったまま、『もちぬし』の食事が少しでも美味しいものでありますようにって祈るだけだ。
その『もちぬし』が入ったのはどこにでもあるフランチャイズの定食屋で、頼んだのは鮭定食。ふっくらしたご飯と味の濃そうな味噌汁、それからお新香と焼鮭。正直、ちょっと美味しそうだったな。だから、よかったと思ったんだ。
『もちぬし』もひとくち鮭をつまんで口に入れると、美味しいってうれしそうに笑ってた。わざわざ口に出すくらいだ。きっと本当に美味しかったんだろうなって思ったよ。俺の祈りは通じたわけだ。
帰り際、『もちぬし』がふと言った。
それを聞いて俺は書き損じでもあったのかと思ったんだよ。つまりあれだ、人間風に言うなら、耳を疑ったよ。ややこしいな。
「すごく美味しいお店ってわけではなかったね」
ええ!? あんなに美味しいって言ってたのに?
ニコニコしてたじゃないか。
俺の疑問に、『もちぬし』は「こういうのは誰と行ったかが大事なんだよ」と笑った。
はいはい。
そういうことね。
俺は鞄の中から『もちぬし』を見上げたね。
我ながら意地の悪い笑みを浮かべながら、頬杖をついて。
誰が俺じゃないのは明白だけど、ま、いいとしようじゃないか。
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